絶版マンガをより多くの人に――Jコミから「マンガ図書館Z」への進化が与えるインパクト

マンガ

更新日:2015/8/10

 8月3日、「絶版マンガ図書館」を運営する赤松健氏と、株式会社GYAOは新会社を設立した。これは、赤松健氏がこれまで運営してきた「絶版マンガ図書館」の事業を引き継ぎ、「マンガ図書館Z」としてリニューアルするというものだ。

図1:本日から公開となった「マンガ図書館Z」。Zは「絶版の頭文字」であり、究極の仕組みを構築したいという意味が込められているという

 赤松健氏は、2011年から「Jコミ」という名前で、出版社から刊行されなくなったマンガを、ネット上で広告付きで展開しその収益を作家に還元するというサービスを運営してきた。昨年7月にはこれを「絶版マンガ図書館」という名前に改め、ユーザーからの作品投稿が可能な機能を新たに加えていた。絶版マンガの電子出版の権利を持つマンガ家以外からも、ユーザーからも作品の投稿を可能とし、権利者が許諾すればそのままサイト上に公開されるという仕組みを特徴としている。今回、その運営をGYAOとの新会社「Jコミックテラス」が担うことになる。

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図2:新会社の会長となる赤松健氏(左)。会見にはでんぱ組.incの成瀬瑛美さんもゲスト参加

 絶版マンガ図書館で扱っていた作品はそのままマンガ図書館Zに引き継がれる。また赤松健氏は引き続き、マンガ家との作品掲載に関する窓口を担う。マンガ図書館ZではPDFでの作品を購入(1冊300円)し、ダウンロードも可能となる。広告が非表示、R18作品が読み放題となるプレミアム会員制度は、従来の100円のコースはなくなり、300円でPDF1冊の購入権が付与される形に改められた。

図3:(株)Jコミックテラスの代表取締役社長に就任する寺岡宏彰氏は、株式会社GYAO 取締役/ヤフー株式会社 メディアサービス本部長でもある

 多くの電子書店では、サービス事業者が手数料を取った上で、作家に還元されるが、赤松氏が運営していたJコミ・絶版マンガ図書館では、そういった料金は取らず(※銀行振込み手数料を除く)に作家への還元が行われていた。また、クラウドファンディング型で、サイン入りグッズなど作品に様々なプレミアムを付けて販売するといったユニークな取り組みも行ってきた。マンガ図書館Zでも、これらの取り組みは継続しながら、週刊連載を抱える赤松氏から運営を引き継ぐことで、サービスの拡充を図っていくという。今回発表された主な新機能は以下のようなものだ。

・51カ国語への自動翻訳
・電子透かし入りPDFのダウンロード販売(一部作品を除く。PDFには購入者の情報が透かしとして記録されており、違法流通への対策となっている。作者への還元率は40%と赤松氏は会見で明かした)
・月額300円のプレミアム会員制度
・プリントオンデマンド販売
・許諾済み作品のKindleストアでの有料販売(KDPを使用)

 この他、会見では将来的にYahoo!コミックでもマンガ図書館Zで扱う作品を独占配信していくことも検討したいと述べられた。新会社の社長に就任する寺岡氏は「GYAOでは権利者から作品を預かり、配信によって収益を上げていく取り組みを行ってきた。絶版電子作品でもその経験が活かせるはず」と自信ものぞかせた。日本最大のポータルサイトYahoo! JAPANでの認知を図ることができれば、作品へのアクセス向上、引いては収益の増加も見込めるはずだ。月額300円のプレミアム会員制度は、利用者を増やしている定額配信制度との相性も悪くないと筆者は感じた。

図4:フキダシ内文字の機械翻訳にも対応。特殊なフォントや手書きの擬音などは対象外だが、OCR認識で51カ国語にリアルタイムに翻訳される

 GYAOとの新会社によって、運営力の向上を図るマンガ図書館Zでは、オリジナル作品を扱うことも発表された。電子書店hon.jpと提携し、いま出版社が扱っている作品=絶版ではない作品は投稿できない自動チェック機能が組込まれたが、この投稿機能にマンガ家・マンガ家志望者からのオリジナル作品の投稿も可能にするというものだ。

「将来的にはマンガ図書館Zに参加する先生方に、投稿作品へのアドバイスを有料で行ってもらうことも考えている。出版社が扱わない絶版マンガに加え、全てのインディーズ作品を扱うことを目指す」と赤松健氏は話す。出版不況の中、マンガ雑誌の持つ新人発掘や育成の力が弱くなっていると指摘されている。comicoのような新しい電子マンガプラットフォームも登場しているが、ユーザー(読者)からの人気でランク付けされ、一部作家には収益還元が行われる仕組みがほとんどで、「ネーム(下書き)に対して、プロによる内容のレベルアップが図られることがない」(赤松氏)のが課題だという。マンガ図書館Zでは、絶版作品だけでなく、オリジナル作品の投稿も募ることで、プロのマンガ家とインディーズ作家の接点をも生み出そうとしており、かなり意欲的な取り組みだと言える。

取材・文=まつもとあつし