この夏、親子で読みたい青春&家族小説! 14歳の少年たちの不思議な島での小さな冒険物語

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/19

 何かにイライラして傷ついて、何もしたくないのに、何者かになりたかった時代、それが青春という時代だ。特に、14歳の頃を思い出すと、甘酸っぱいような、ほろ苦いような気分にさせられるのは、私だけでないだろう。子どもから見れば想像などできないだろうが、どんな大人にもそういう幼い時代があったはず。そんなことを感じさせてくれる、ぜひともこの夏、親子で読んでほしい小説がある。

 『14歳の水平線』(椰月美智子/双葉社)は、これから14歳という時を過ごす者、今14歳である者、そして、かつて14歳だった者、すべての人に薦めたい青春小説だ。子どもにとってこの本は、友達や家族の温かさを感じさせ、「今」の大切さを気付かせてくれるだろう。そして、大人にとってこの本は、ひとたび開くだけで、自らの青春時代を思い出させてくれる1冊である。自然の中でのびのびと過ごす14歳の少年たちの姿に、どうしてこんなに胸が締め付けられるような心持ちがするのだろうか。

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 主人公は、児童文学作家の桐山征人と、その一人息子で14歳の桐山加奈太。2人暮らしをしている彼らは、すれ違いばかりだ。反抗期真っただ中の加奈太はいつもなぜか征人に対してイライラしている。一方で、父親の征人も仕事では子どもの話を描いているのにも拘わらず、息子の気持ちが掴めないでいる。そんな2人は夏休みを利用して征人の故郷の天徳島を訪れることになる。島では、征人の幼なじみの孝俊が山村キャンプ「4泊5日ミステリーツアー」を企画しており、加奈太はそれに参加することになるのだ。

 加奈太はキャンプ参加者の仲間と友情を築きながら、今までの自分について考えをめぐらせていく。ぽっちゃりした体型で信心深く、素直な性格の平林光圀。運動神経抜群、知識も豊富な川口見楽留(ミラクル)…。中学2年生男子6人の共同生活は、いざこざも絶えない。そんな彼らを包み込むのは、島の自然、海や砂浜。「神の島」と呼ばれる父親の故郷に言い伝えられた不思議な伝承の数々。ドゥヤーギーという恐ろしい妖怪…。5日間で、いったい加奈太は何を学びとったのだろうか。

 そして、父親は、島に帰ってきたことによって自分の14歳の頃を思い出していく。飛び込みに熱中し、親友の初恋を見守り、一夜限りの冒険をしたあの夏…。島で息子が学んでいくこと。かつて、父親が島で学んだこと…。父と子、2人の14歳の姿が重なりあっていくことで、思春期ならではのきらめきとほろ苦さが読み手の心に染み渡っていく。

 14歳。中学2年生。「中二病」だとか、「反抗期」だと言われる年代の彼らの等身大のあがきに愛おしさすら感じる。どうしてこうもナイーブなのだろう。その純粋さ、不器用さを微笑ましく思いつつ、そうやって悩み苦しんだとしても、大切なものを見つけられるから大丈夫なのだと声をかけてやりたい。この夏、確かな友情を築いていく彼らはきっといきいきとした大人になるだろう。『14歳の水平線』を読めば、アナタも冒険に出たくなるに違いない。さぁ、この本とともに、誰よりもステキな夏を過ごそう。

文=アサトーミナミ