「意識高い系=アピールしないと褒められない人たち」ドランクドラゴン・鈴木拓インタビュー前編

芸能

公開日:2015/8/14

クズころがし』(鈴木拓/主婦と生活社)

 お笑いコンビ・ドランクドラゴン、鈴木拓。2008年に始めたブログ「相方に捨てられるその前に」で、独特の文才が知られるようになった。そして今年5月、満を持して出版された初の著書『クズころがし』は、“クズ”と呼ばれる芸風からは意外な自己啓発本。「努力は簡単に人を裏切る」「夢にしがみつくのはただの屍」といった、一見すると厭世的な言葉が並ぶ。しかし読み進めると、共感のあまり思わず涙腺が緩んでくる……。鈴木拓流・処世術について聞いた。

◆努力なんてやめちまえ

――処世術をテーマにしたのはなぜですか?

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鈴木拓(以下、鈴木):出版社の方から、「人の気持ちが軽くなる本を出しませんか?」と声を掛けていただいたんです。普段、みんながあまり言わないことをバンバン言っちゃうことが多いので。「努力は必ず報われる」とか言う奴、ヘドが出るじゃないですか。成功した人に聞くからだろ、努力しても報われない奴、いっぱいいるだろ、ってバンバン言ってたら、「そうだよね」「ちょっと救われたわ」と言われるようになったんですよ。まぁ、「努力なんかしても仕方ないからやめちまえ」という本ですね(笑)。そういうのが処世術だったり、自己啓発っぽくなったということです。

――よくぞ言ってくれた!というところがたくさんあります。「いまが一番幸せと言う人はバカ」とか。

鈴木:いるじゃないですか。若い頃は人気だったけど、「いまのほうがもっと幸せ」って言う人。女性タレントとか。絶対そんなことないだろっていうね。だったらお前が遠くから顔面に当ててる照明はなんなんだ、シワができて浮き彫りになっちゃうから照明で誤魔化してるだろ、と。そんな状態が果たして本当に幸せなのか?「わたしは幸せです」と言うことで、周りから「いまでも光り輝いてるんだな」という票を集めたいだけでしょ。そんな見栄なんか張りたくねえし、そこそこでいいじゃないか、という話です。

――「自慢話をする人は自分が現在進行形でスベってることに気づいてない」というのも、さすがです(笑)。

鈴木:自慢話をしてもいいんですよ。ただ、聞いてる人が「面白いね」「良かったね」と思えるものじゃないとダメです。誰も喜ばないような自慢話というのは、「うわ、こいつ自慢してる」と、ただただ己の評価を下げるだけです。でも最後にオチがあって笑えれば、毛嫌いされないですから。

――どうやったら自慢話にオチをつけられるでしょうか?

鈴木:僕だって自慢したいことって多々あるんです。ダウンタウンの松本さんに演技を褒められたとか、ビートたけしさんに「塚地より鈴木のほうがいいんだよな」って言われたとか。でももしこれだけを言った場合「自慢かよ」と思われるから、その後に「でも、“塚っちゃんのほうが売れると思う”って言われた」とか、フォローします。人に対してサービス精神のない自慢は嫌われるだけだと思いますね。

◆ネガティブだから人は頑張れる

――いま“意識高い系”と呼ばれる人たちが持て余されている風潮ですが、どう思われますか?

鈴木:鳥肌が立ちますよ。頑張ってるアピールしてもいいんですけど、押しつけがましさがあるでしょ。わたしってどうですか、みたいな。地味にやってて「スゴイな」と思われる分にはいいんですけどね。散々アピールしまくって、そのうえ中身がなかったりしますよね。

――なぜアピールしてしまうのでしょうか?

鈴木:そういう人たちって、目立ちたがり屋だし、褒められたいでしょ。でもアピールしないと褒められないんですよ。それをやればやるほど、薄っぺらく感じるんですよね。大体からして、ポジティブなんて言ってる奴はバカですから。ネガティブだから人は頑張れるんです。ポジティブで不安もなかったら、同じ失敗を繰り返すだけですよ。

鈴木:ネガティブなほうがよっぽど前に進んでますし、失敗しても学習して次はうまくいきます。繊細だからビビッてしまって、なかなか前に踏み出せないというのはありますけどね。確かにバカな奴のほうが前には進みます。でも、「俺は泳げる」「俺は溺れない」っていう奴は大抵、川で死ぬんですよ。本当に泳げる奴はそもそも川に入りませんから。

――というと、鈴木さんはネガティブなんですか?

鈴木:僕はポジティブです(笑)。ネガティブなところもありますけど。まぁ、あんまりネガティブ、ポジティブ、というのは考えてないですね。自分がどうのこうのっていうよりも、出来るか出来ないか。出来ないなら絶対にやりません。勝てる勝負しかしません。「よし、イチかバチか勝負だ!」なんてことはやらないです。周りには、「勝てるかなぁ、分かんないなぁ」と言いながら進みます。で、勝てたら「勝てたじゃん!」とみんなから言われて、「ありがとう」と(笑)。そのほうが株が上がるでしょ。ハードルを下げるんです。

◆ハードルは目一杯下げる

――「ハードルは目一杯下げる」とも書かれています。

鈴木:NHK(※朝ドラ『まれ』)でも、「台詞減らしてくれませんか?」って言いましたからね。3行以上は覚えられないので。そしたらプロデューサーさんに、「なに? 出たくないの?」ってスゲェ怒られました(笑)。そういうわけじゃなくて、ただ覚えられないんです。

――普通だったら台詞がほしくて仕方ないと思うんですが。

鈴木:その代わり、交換条件は出してますよ。必ずどこかの画面にちょろっとでも映っていれば、出演したことになりますから。ビジネスマンで言うところの、文字の単価を上げるんですよ。一文字につき、いくらか。トータルの金額は変わらないですから、台詞が少ないほうが単価は上がります。それでいて、「ここは喋ってもらわないと困る」というときに喋ると、「おお! 出来るじゃないか!」となる。ハードルを下げて評価を上げるんです。

――周りから、「ズルい」とはなりませんか?

鈴木:ズルいって思われるということは、僕のことあんまり分かってもらえていない可能性が高いです。仲が良ければ、「こういう奴だからね」「こいつおもしれえな」で終わるんですよ。仲良くなってしまえば悪口もなくなってきますから、憎まれないでささっと逃げられる。だから苦手な人であればあるほど、近づいていって仲良くなったりもします。

 「意識高い系はウザい」というのは誰しもが薄々感じてはいるものの、“意識が高い”という属性のなにがウザいのか、明確に説明するのはなかなか難しい。「褒められたいけど、アピールしないと褒められないからアピールする」という本質を突いた見解はお見事。後編、さらに現代社会を賢く生き抜くための秘訣を聞いた。

取材・文・撮影=尾崎ムギ子