綿矢りさ 「女どうしの対決を楽しんで書いた」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

「男女の付き合いでは“あの人もこの人も別の意味で大切だよね”とか口では綺麗事も言えるけれど、結局は1対1のものですよね。この小説は、優しすぎる男の人が究極の二者択一、今まさに溺れている2人の女性の片方だけ助けなあかんという状況ではどうなるのか、みたいなところから考えはじめました」

書いてみて生き生きと動きだしたのは、2人の中でも主人公ではなく、失業を口実に男性の家に転がり込み、昼も夜も男性に「会いたいな☆」などと香ばしいメールを大量に送る、アキヨというしぶとい女性だった。

「アキヨのメールは“イケアでバスマット見てきた♪”など、よく読むと就職活動せずに遊んでいるんじゃないか、となる(笑)。あれは書いてて楽しかったですね」

主人公はいい女ぶっているけど、どこかアキヨに負けていて、勝手に妄想を炸裂させ、戦う前から諦めてしまう。

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「ここは私の思考パターンが入ってますね(笑)。アキヨの言動からはおかしみと同時にストレスも溜まってきていたので、ついに2人の対決という時は『来た来た!』と楽しんで一気に書けました」

デビュー4冊目の『勝手にふるえてろ』以降、小説の書き方が変わったという綿矢さん。

「それまでなら、調子に乗りすぎかと削っていた、楽しんで書いちゃった部分を残しておいた。すると“あっ、書くってこんなかんじだったな”とラクになって。不思議ですよね、それなりに経験は積んでいたのに、自分のフォームは案外昔のまま頑固だったというのは」

そこで、「自分で作れる世界やのに、意思で調節できる部分は少ないんだな」と気づいたという。

「それからは、私自身と小説との距離も縮まったというか、この本の2作もその延長線上で先を気にしすぎず、へんに欲をかかずに楽しんで書けたんです」

(ダ・ヴィンチ12月号 今月のブックマークより)