ファン増加中 「人狼ゲーム」でコミュニケーションスキルは向上するのか?

人間関係

公開日:2015/8/21

 ここ数年、「人狼」というゲームが流行っている。ゲームと言っても、画面に向かってボタンを押す類のそれではない。10人以上が対面で話し合いをする、テーブルゲームである。フジテレビやTBSでも、出演者がこの人狼ゲームをするバラエティが放映されるなど、着実に人狼ゲームのファンは増えつつある。

 本題に入る前に、人狼ゲームの簡単なルールを紹介したい。

【人狼ゲームの簡単なルール】
最初に行うこと:参加者が全員カードを引き、それぞれ「村人側」か「狼側」かを割り当てられる。
目的:村人側は狼が誰なのかを見つけ、狼側は自分が狼であることがバレないように振る舞う。
ゲームの流れ:ゲームは昼のターン、夜のターンを繰り返していく。昼のターンでは話し合い(議論)を行い、参加者の中で誰が狼のカードを引いたのかを探す。昼のターンの最後に、一人「処刑」する者を投票で決める。投票が最も多く集まった者は処刑され、ゲームから退場する。夜のターンに、狼のカードを引いた者は、誰か一人を「襲撃」し、襲撃された者は、ゲームから退場する。これを繰り返していき、狼を一人残らず処刑できたら村人側の勝ち。狼の人数と村人の人数が同数になれば、狼側の勝ちとなる。

※なお、人狼ゲームには対面で行わないもの(ネット人狼、アプリなど)も存在するが、本記事で扱う「人狼ゲーム」はすべて対面のものとする。

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 さて、この人狼ゲームだが、言葉を尽くして話し合いをするゲームなだけに、一見、ものすごくコミュニケーションスキルを要するように思える。だが、人狼ゲームを好んで頻繁にプレイしている人々に聞くと、真逆の答えが返ってくる。「人狼のときは喋れるけど、人狼以外の日常生活では“コミュ障”(コミュニケーションが苦手)なんです」と。一体どういうことか。人狼ゲームはコミュニケーション能力の向上の助けにはなっていないのだろうか? 『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(新曜社)を上梓した、丹野宏昭さん、児玉健さんに聞いてみた。

(左)丹野宏昭さん:心理学者 (右)児玉健さん:「人狼ルーム」という人狼ゲームができるお店のゲームマスター、舞台「人狼ザライブプレイングシアター」のゲームアドバイザー

人狼ゲームでは喋れるのに、日常生活では喋れない

児玉さん これ僕、当てはまりますね。人狼ゲームをしているときはよく喋りますが、それ以外の場だと喋れないんです。人狼とか、要は自分が詳しい領域の話なら24時間話し続けられますが、そうでない他愛もない話ができない。誰かとお茶して、「このマカロンおいしいねー」とか言えないですもん。

――分かります。すごく分かります。実は私も人狼ゲームが好きなのですが、人狼の話を禁止されたら何も喋れなくなります。日常生活の“いわゆる普通の”コミュニケーションがうまくできません。

丹野さん 「コミュニケーション能力が高い」とは何か、を考えなければならないですね。『人狼ゲームで学ぶコミュニケーション~』の本で紹介している、人狼ゲームを通じたコミュニケーショントレーニングは、コミュニケーションにおける基礎的なスキルの向上を目的としています。それは、自分の思っていることをちゃんと主張するスキル・ほかの人の話をちゃんと聞くスキル、の2点。普段、人狼ゲームをプレイできている人は、この2点に関しては、濃淡はあるかもしれませんが、それなりにできていると思うんですよね。「人狼以外の場だとうまく喋れない」というのは、また別のスキルになってきます。共通性を探すスキルだったり、共通性がなくても話を盛り上げるスキルだったり。

    

児玉さん 「コミュニケーション能力が高い」というと、一般的にはそういう、共通性がなくても盛り上げることができる、のようなイメージがありますよね。例えば、一人でバーに行って知らない人に話しかけてこい、って言われたら、僕、無理ですよ。

丹野さん それができる人はコミュニケーション能力が高いのは間違いないと思うんですけど、だからって、それができなかったらコミュニケーション能力が低いとも言えないと思うんですよね。例えば、すごく聞き上手な人っていますよね。聞き上手で、口数は少ないけど、たくさん相槌を打って気持ちよく喋らせてくれる、こういう人ってコミュニケーションスキルが高いと言えるはず。だから、コミュニケーションスタイルの好みの問題のような気もします。
人狼ゲームでも、例えば「聞く」よりも「喋る」に振り切った人ばかりが10人以上集まっても、全員が全員喋りっぱなしで成り立たないですし。

児玉さん 逆に、聞くことに特化した人が13人集まったら、誰も喋らない、とかもあり得ますよね(笑)。結局、それじゃあコミュニケーションできてないじゃん、となるわけで。

“コミュ障”なのではなく、コミュニケーションスタイルの好みの問題?

――最低限、基礎的なコミュニケーションスキルを持っていれば、あとはコミュニケーションスタイルの相性の問題、ということでしょうか?

児玉さん ケーキに興味もないのに、場を盛り上げるために「ケーキおいしいね~」と言える人って、確かに誰とでもコミュニケーション取れる印象がありますけど、一方で「薄っぺらい」というイメージもありますよね。僕は、思ってもない「おいしいね」よりも、だったらそのケーキのうんちくを2時間、3時間みっちり聞かされるほうが楽しいです。
「喋る ←→ 聴く」
「専門的な会話 ←→ 一般的な会話」
とかをグラフで表したときに、どこに位置するかなのかも。僕の場合は、「専門的な会話」側で、なおかつ「喋る」に寄ってると思います。
人狼ゲームって、そういう自分のスタイルを自覚できる面もあるかもしれません。

    

丹野さん それはありますね。ちなみに、心理学のスキルトレーニングでも、まず自分のことをちゃんと理解する、何が得意で何が苦手なのか、足りない部分をどう補うのかを考えたり教えてもらったりして、知った上で試してみる、その繰り返しです。そういう意味では、人狼ゲームは知らず知らずのうちにそのトライ&エラーをできるゲームだと言えます。

児玉さん あと、「人狼ゲーム以外だとコミュニケーションが上手く取れないんです」と言っても、そもそもその人狼ゲームの最中って、めちゃくちゃ高度なコミュニケーションを取ってると思うんです。初めて会った人といきなり議論して、ゲームを通して上手く人を説得できなかったら、「自分にはこれが足りないかもしれない」「こういう言い方すると人に伝わらなかったな」と自己分析して反省をして。それって、普通に友達と雑談しているときのコミュニケーションでは得られない産物なわけです。すごく“濃い”コミュニケーション体験なんですよ。

丹野さん 人狼ゲームにも色々な文化があるから、どんな文化の人狼ゲームでも、“濃い”コミュニケーション体験ができるとは言えないですけどね。人狼ゲームには、みんなでワイワイするものもあれば、論理重視でシステマチックに進めていくものもあります。後者はどちらかといえば コミュニケーションをノイズとして捉えているもので、コミュニケーションの相互作用をゲームを通して楽しむのが前者。前者が今回、本書でも取り扱っている「人狼ゲーム」です。

児玉さん 僕がゲームマスターをやっている「人狼ルーム」というお店が、その前者の考え方で、丹野さんは昔からお店のお客さんとして人狼ゲームを何度もしに来て下さっていた、なんていう裏話もあります。僕の人狼観は偏っているので、ほかの人狼ゲームをプレイしてきた方は、もしかしたら「人狼=コミュニケーション」という考え方自体にピンとこないかもしれません。でも、こういう考え方もあるんだ、と思ってもらえれば、と。

丹野さん ただ、決して本書は人狼ゲームの“必勝本”ではないです(笑)

児玉さん 人狼が、こうすれば必ずこういうことが起こる、と決まっているコンピューターゲームだったら、いわゆるドラクエの攻略本のようなものも出せますが、相手が人間なので。ここに行くのが最短経路で、ここに宝箱があって、ここに行くと罠があって危ないよ、などという正解があるものじゃないですからね。人間相手にやるゲームで、お金を出して必勝本を買えてしまったら、全員がその必勝法を使うようになって、それはもはや必勝法ではなくなってしまいます(笑)

コミュニケーションの癖や好みが浮き彫りになる人狼ゲーム

児玉さん 人狼ゲームを通して、自分の好みのコミュニケーションのスタイルを知ることができる、という話が先ほど出ましたが、この本を読むことがその手助けになったり、幅が広がったりするんじゃないかと思います。読んだ人が、次の人狼に行くのが楽しみになったり、書かれているスキルを試してみたり。

    

丹野さん 例えば、「フットインザドアテクニック」とかの心理学の有名なテクニックも載っていますが、こういうのを聞いたことがあっても、日常生活でそんなに頻繁に人を説得する機会もないですから、応用もできないんですよね。それが人狼だと、ゲームを一戦やる中で何度も何度も説得する機会が訪れるから、応用しやすい。

――人狼ゲームを1戦(約1時間)する中で、多分そこらの営業マンよりも説得やプレゼンを繰り返していますよね。

丹野さん そうやって試行錯誤する中で、いろんな発見があって、振り返りができて、今の自分がどうなのかを知れる。今、自分に何が欠けていて何が得意なのかが分かるゲームですね。

児玉さん 僕自身、そう言われてみれば、人狼ゲームをきっかけに、自分のコミュニケーションスタイルが変わったなと思いますね。昔はもっと、「このケーキおいしいね」のような軽いコミュニケーションを取っていたと思うんですが、自分の好きなコミュニケーションってそういうのじゃないな、と気付いて変わっていって、今に至ります。だから、人狼ゲーム以外の日常生活で他愛もない会話が上手くできなくても、いいんですよ。そういうコミュニケーションが別に好きじゃないだけなんです、多分(笑)

取材・文=朝井麻由美

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