主人公を喰う脇役! 耽美系マンガ『イノサン』の美女マリーが残虐なのにカッコイイ!

マンガ

公開日:2015/8/23

 主人公より脇役のほうが人気が出るパターンがよくある。“マンガあるある”だ。こと、少年マンガによく見られるが(『NARUTO』でいうサスケとか、『進撃の巨人』でいうリヴァイとか)、個人的には少女マンガでよくその現象に陥る。イケメンに惚れられるお人好しな女の子より、恋敵の性悪美女に惹かれる。元気いっぱいで正義感の強い女の子より、ダークサイド落ちしていく腹黒女子に惹かれる。単純に、“愛され主人公”に共感できない・したくないだけのひねくれ者なのかもしれないけど…。

 さて、ここにも主人公を喰う勢いで、人気を集めている脇役がいる。『イノサン』(坂本眞一/集英社)のマリー=ジョセフ・サンソンだ。『グランドジャンプ』で連載中の本作は、“処刑人”の一族サンソン家の数奇な運命を描いた歴史マンガ。耽美な画風で人気を博し、残虐な処刑のシーンですら美しい。ときおりミュージカルを彷彿させるような演出で、読者の度肝を抜いてくれる。

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 そもそもは、シャルル=アンリ・サンソンというのが、本作の主人公である。サンソン家4代目当主でありながら、処刑人という仕事に苦悩し葛藤する。基本的には、このシャルルが大洪水のフランス革命を生きていく姿を描いたストーリー…なのだが、どうもその妹であるマリーのほうに目がいってしまう。

 幼少期より残虐な嗜好の持ち主であったマリーは、11歳にして処刑人デビュー。女性でありながら、罪人をバッタバッタと斬り捨てていくタフガールだ。美しい容姿に、男にも勝る腕っ節、おまけに激しい気性の持ち主であるマリーは、見ていて清々しい。自分の運命に苛まれては涙する主人公のシャルルよりも、運命を突き進んでいくマリーのほうが魅力的に映ってしまうのはもはや仕方あるまい。

 タフさもさることながら、その洗練されたビジュアルも人気のひとつだろう。なんたって、金髪ロングを大胆に刈り上げている(断髪するシーンも見どころで、そこはぜひ実際に読んでもらいたい)。

 とにかく、強気で勝ち気で残忍な性格のマリーだが、意外なことに一人称が“マリー”。自分のことを名前で呼ぶそのギャップが密かに萌えポイントなのだ。死刑が決まった罪人を罵倒するシーンでも、

「お前がマリーの剣に見合う男でないなら 今ここで死ね!!!」

 と、啖呵を切る。…なにかこう、新しいジャンルのツンデレというか、そんな印象を受ける。

 冒頭のほうで“主人公を喰う勢い”と書いたが、実際、新章の「イノサンRouge(ルージュ)」第1話の表紙では、マリーが主人公ポジションにいる。マリーをメインに据えたこの展開が最初から決まっていたことなのか、それともマリーの人気が出すぎたために決まったことなのかは定かではないが、これからさらにマリーの活躍が見られるとあって、ファンとしては嬉しい限り。

 マリーの生き様、とくとご覧あれ―!

文=中村未来