スター・ウォーズ公開記念! シリーズおさらい&傑作スペースオペラ特集

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 今年の12月、最新作の世界同時公開が決まり、にわかに盛り上がってきたスター・ウォーズ(以下「SW」)ですが、第一作エピソードⅣ(1977年)の公開から38年、いまや世界中の老若男女に愛される作品へとなりました。ところで、SWといえば、「遠い昔、遥か彼方の銀河系で……」というあまりにも有名なオープニングの文言にあるように、広大な宇宙を舞台にした「スペースオペラ」ですが、このジャンル、名前は聞いたことがあっても物語に読んだことはないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、最新作公開に備えたSWシリーズの簡単な復習と、知られざるスペースオペラの魅力をご紹介したいと思います。

スター・ウォーズサーガの原点

▲『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』(テリー・ブルックス著・富永和子訳/竹書房)

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 つい今しがた「簡単な復習」と申し上げたばかりで恐縮ですが、この記事でSWのすべてをご紹介することは不可能です。その理由はamazon.jpの検索窓に「スター・ウォーズ」と入力していただければお分かりになると思います。

 ですので、今回は全てのSW初心者にまず読んでいただきたい一冊をご紹介したいと思います。それがこちら、富永和子訳版の『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』。壮大なSWシリーズの原点と呼ぶにふさわしい作品です。物語は辺境の「惑星タトゥイーン」の少年アナキン・スカイウォーカーを中心に動き出します。貧しい奴隷に過ぎなかったアナキンが、彼の恐るべき才能を見抜いたジェダイマスター・クワイ、そして「惑星ナブー」の若き女王アミダラとの超銀河的な出会いと別れを経て、急激に大人へと成長していく姿が描かれています。このアナキン少年はやがてSWシリーズの命運を握る重要人物として成長していきますが、この時まだそんな彼の未来を誰も知りません。

 ご存知の方も多いように、SWはエピソードⅣから始まるため、エピソードⅠは映画公開の順でいえば4作目ですが、既にⅠ〜Ⅵまでの全作品がそろった今、映像技術の進歩のようなタイムラグのない小説で読むのであれば物語順に読み進めていくことをオススメします。

 

絵で読むスター・ウォーズ総集編

 それでももし、あなたがどうしてもSW全作を手短におさらいしたいのであれば、こちらの本をご紹介しましょう。表紙を一目見て分かるように、大きく派手なフォントがデザインされており、本文中ではほとんどの漢字にご丁寧にルビが振られてあります。それにより、あたかも「小さなスター・ウォーズファンのお友達へ」といった、新たなファン世代の為の入門書のような雰囲気を放っていますが、侮ってはいけません。「宇宙戦争全記録」の名に嘘偽りなく、エピソードⅠ~Ⅵまでの主要な戦いが網羅されているだけでなく、ファンが読んでも思わずニヤリとしてしまうような“ツボ”がしっかりとおさえられた、子供はもちろん、大人も楽しめる非常に高いポテンシャルを秘めた一冊なのです。一番の見どころはシリーズの戦争が、陣営ごとに分かりやすく解説されている点。映画で既に物語を追っている人でも、本書を読むことによる新しい発見がきっとあるはずです。

世界最古の近代スペースオペラ

銀河パトロール隊―レンズマン・シリーズ』(E・E・スミス/東京創元社)

 ところで、約40年もの歴史を誇るSWも、スペースオペラの長く輝かしい歴史においては中興の祖でしかありません。その最初期の傑作として名高いのがこの『レンズマン』シリーズ。発表されたのはなんと1937年、SWエピソードⅣからさらに40年も前でした。しかもこの『レンズマン』シリーズはジャンルの黎明期の作品としてありがちな、アイディアの斬新さと引き換えにディテールの甘さが目立つ、読み手に一定の寛容さを求めるような試作ではありません。作者であるE・E・スミスはこのレンズマンにおいて今日に至るまでのあらゆるスペースオペラ作品の(そこにはSWも含まれています)アイディアの基礎を完全に築き上げてしまったのです。

 考えてみてください、まだ旅客機すらも一部の特権的な富裕層にしか搭乗することが許されなかった時代に、遥か太陽系の外側を行き来する疑似科学的な宇宙船を描き出す想像力を。このスミスの宇宙哲学の影響を強く受けたのちの世代が「ステルス」をはじめとする画期的な軍事技術を現実世界で実現していったという史実は、あまり知られてはいません。

スペースオペラ日本代表といえば!

▲『銀河英雄伝説 黎明編』(田中芳樹/東京創元社)

 『SW』や『レンズマン』の作者が共にそうであったように、スペースオペラ作品の多くの傑作はアメリカ人の手によって生み出されてきました。しかし、だからといって全ての日本人がこれまでこのジャンルの単なる消費者として今日まで指を咥えて過ごしてきたわけではありません。

 日本でもこれまで素晴らしいスペースオペラ作品が生み出されてきました。その代表格であるのがこの田中芳樹氏の『銀河英雄伝説』シリーズ。人類が太陽系外の宇宙にまで進出し、文明と繁栄の栄華を極めた後の遠い未来を舞台に、「帝国」と「同盟」の二大陣営が銀河系の覇権をかけて争う壮大な宇宙叙事詩です。そして、この作品の最大の特徴はなんといっても魅力的なキャラクターたちによって紡がれる人間のドラマ。群雄割拠する英雄たちが、広大な銀河をチェス盤に、時に知略を巡らし時に剛腕を振るいながら交錯する様は、まさにスペースオペラ界の三国志とも呼ぶべき、日本人好みのロマンあふれる物語です。

世界最高峰のスペースオペラ!?

▲『ファイブスター物語』(永野護/角川書店)

 スペースオペラの一つの評価基準が「物語スケールの広大さ」であるとするならば、この『ファイブスター物語』はその意味において紛れもなく「世界最高峰のスペースオペラ」だと断言できるでしょう。

 ジョーカー太陽星団という四つの太陽系からなる架空の宇宙を舞台に、人類、騎士や神、女神たちがモーターヘッドという巨大なロボットを操り数千年の時を越えながら戦い続けるこの神話は、連載30周年を間近にしながらもまだ終結の気配の見えない、将来有望な「未完の大作」候補として多くのファンを脅かし続けているのです。あらゆるロボットジャンルの中でも一際異彩を放つ壮麗なモーターヘッド、凝りに凝った登場人物たちのファッション、本当にすべてを把握している読者がいるのか(ともすれば作者さえも)危ういほどの緻密すぎる裏設定など、細部の魅力を語れば枚挙に暇がありません。

 因みに、作者の永野護氏いわく、この『ファイブスター物語』はおとぎ話なのであって、SF的、科学的な辻褄合わせに期待をしてはいけません。2015年8月、9年4ヵ月ぶりに出た新刊では、なんとこれまで何十年にもわたって築き上げられてきた多くの設定が「刷新」されてしまっていることでネット上の一部で大きな話題となったのですが、それも長年のファンにとってはご愛嬌に過ぎないのです。

 もともとスペースオペラという言葉は、アメリカの昼の時間帯に放送されていたメロドラマの通称「ソープオペラ」に因んで名づけられた蔑称だったそうです。しかし、荒唐無稽だと馬鹿にされたジャンルがいつしかSWのように世界を感動させるエンターテイメント超大作を生み出しました。もちろん、ご紹介したようにSWの前にも後にも同じくらい素晴らしい作品は沢山あります。12月の公開日を末までを待つまでの間、これを機に色々なスペースオペラ作品に手を伸ばしてみるのはいかがでしょうか?