立ち上がれ、ロスジェネ! 半沢直樹からの熱いエール

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

一大ブームを巻き起こしたドラマ『半沢直樹』は、主役の半沢が悪い上司をやり込めるという痛快な結末のあとで、ヒーローのはずの半沢が出世ではなくまさかの出向を命じられるというところで終わった。これは実は原作通りで、意外な結末に視聴者は「続きが知りたい」とばかりに、シリーズの続編を買いに走ったという。それが本書『ロスジェネの逆襲』(池井戸潤/文藝春秋)だ。

東京中央銀行から「東京セントラル証券」に出向となった半沢が、IT会社の買収問題を手がける物語だ。もちろんすんなりとはいかない。「電脳雑伎集団」という会社の平山社長からライバルの東京スパイラルを買収したいという相談を受け、大きな仕事に担当者たちが張り切るも、その仕事をまるまる親会社の東京中央銀行証券部に横取りされてしまうのである。背後には何かある──そう思った半沢は、部下の森山とともにある計画を立てる。

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シリーズ過去の2作『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』(ともに文春文庫)は、半沢直樹をはじめとするバブル期に入行した主要人物たちを中心に、銀行内での派閥対立を描いていた。翻って本書のテーマは「世代論」だ。イケイケドンドンだったバブル組と、バブル崩壊後の1992年から2004年あたりにかけて入行してきた世代、いわゆる「ロスト・ジェネレーション」世代との違いが浮き彫りになる。

ロスジェネ世代の森山は、仕事をやる気がないわけではないが、「どうせ」とあきらめることが多い。自分たちは就職氷河期に苦労して就活し、狭き門をくぐってここにいるのに、バブル世代は能力もないのに楽ばかりしている、ずるい、という思いが根底にあるのだ。

物語は、二重に錯綜した買収問題をめぐって二転三転のサスペンス。背後に隠された計略を見抜き、思わぬ反撃を仕掛けるくだりはこれまでの半沢直樹シリーズと同様に、手に汗握る攻防と、すかっとするカタルシスが堪能できる。しかしその本筋とは別に、一連の事件を通して変化していくロスジェネ森山が印象的だ。

半沢は言う。世代論に根拠なんてないのだと。バブル組だからってみんながダメじゃわけじゃない。ロスジェネだってみんなが優秀なわけでもない。どんな世代にも、できる奴もいればできない奴もいる。もっとも大事なのは、何か。「世の中の矛盾や理不尽と戦え、森山。オレもそうしてきた」

ロスジェネの逆襲』は、痛快な企業エンターテインメントだが、それと同時に、池井戸潤からロスジェネ世代へのエールでもあるのだ。不満もあるだろうし被害者意識もあるだろう、でも世を拗ねても仕方ない、これからは君たちの時代なのだから、思い切りやってやれ! と。本書には、著者のそんなメッセージが込められているのである。

文=大矢博子