鼻ちょうちん、汗、流血…北欧女子漫画家・オーサから見た、日本のマンガ技法の不思議

コミックエッセイ

更新日:2017/4/10

(左から)オーサ・イェークストロムさん、小栗左多里さん、トニー・ラズロさん

 北欧スウェーデンからやって来て4年のちょっとオタクなスウェーデン人女子マンガ家・オーサさん。日本への愛が溢れた爆笑4コマコミックエッセイ『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』(KADOKAWA)が大人気だ。待望の第2巻が、ついに9月18日(金)に発売! それを記念して、電子書籍配信が同じく9月18日(金)にスタートする「ダーリンは外国人」シリーズ著者の小栗左多里さん、トニー・ラズロさんと豪華鼎談が実現した。ダ・ヴィンチニュースでは、「コミックエッセイ劇場」ではご紹介しきれなかったお話を特別公開!

小栗左多里さん
おぐり・さおり●岐阜県生まれ。1995年デビュー。代表作は『ダーリンは外国人1~2』『ダーリンの頭ン中1~2』『さおり&トニーの冒険紀行イタリアで大の字』など。2012年にベルリンに移住し、『ダーリンは外国人 ベルリンにお引越し』が大好評発売中。現在、『コミックエッセイ劇場』で『ダーリンは外国人 ベルリン暮らし3年目』も随時更新中。
WEB@OGURISaoriInstagram

トニー・ラズロさん
とにー・らずろ●ハンガリー人の父とイタリア人の母の間に生まれ、米国に育つ。1985年より日本を拠点にライターとして活動。92年に多文化共生を研究するNGO「一緒企画(ISSHO)」を設立。著書に『トニー流幸せを栽培する方法』など。トニーのサイト

advertisement

「ダーリンは外国人」が電子でも読める! シリーズ全7作、いよいよ本日配信スタートです!

オーサ・イェークストロムさん
おーさ・いぇーくすとろむ●スウェーデン生まれ。子どもの頃、アニメ『セーラームーン』とマンガ『犬夜叉』を知ってマンガ家になることを決意。スウェーデンでマンガ専門学校卒業後、イラストレーター・マンガ家として活動。2011年、東京に移り住む。現在、『コミックエッセイ劇場』で『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』を連載中。他の作品に『さよならセプテンバー』がある。オフィシャルブログ@hokuoujoshi

鼻ちょうちんに鼻血 日本のマンガの独特な文法

小栗 オーサさんの『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』はWEBで拝読していて、とても面白いと思いました。すごく上手な方だなと。日本ぽいマンガの描き方をすごくわかっていらっしゃいますよね。アップと引きの絵の使い方、場面の展開とか構図の取り方。背景の描き込みも丁寧ですし。

オーサ ありがとうございます!

小栗 それって勉強しても身に付かないと思うから、そもそもセンスがいいんだなと思いました。スウェーデンと日本のマンガはだいぶ違いますか?

オーサ 違います。スウェーデンでは、政治的なものや自分のことを描いたものがほとんどです。私も最初『コミックエッセイ劇場』がコミティアでやっていた出張編集部に持ち込みをしたのですが、そのときのマンガは自分の失恋を描いたストーリー4コマでした。かなり暗い感じの。スウェーデンではマンガへの考え方がすごく違っていて、笑いやハッピーエンドは必要ありません。自分の話を描いていることが一番大事で、センチメンタルだったり恥ずかしいことを明かしていたり、できるだけパーソナルなほうがいいんです。

トニー 表現の手法も違いますよね? 喜びとか悲しみとか、驚きとか。たとえば日本では、寝ているときは鼻ちょうちんを描く。それはきっと日本だけですよね。ほかの国が取り入れる気配もない(笑)。

オーサ 全然違いますね。それはもう、たくさん読んで慣れました。

トニー 汗の種類にも違いがあります。どのようなときに、どう汗をかくのか、非常に細かく表現が分かれている。


オーサ 確かに日本ではよく汗を描きますね(笑)。形も違います。日本の汗はタラっと流れる感じですけど、スウェーデンではばーっと飛び散ります。あと、セクシーなシーンで「ブーッ」と出る鼻血の意味がわかりませんでした(笑)。

トニー 合図というか記号ですよね。鼻ちょうちんも汗も鼻血も。


小栗 擬音語、擬態語もかなり違うんじゃないですか。サラサラとザラザラとか、使い方を間違いませんか?

オーサ 間違えます。擬音語、擬態語は本当にわかりません。4コマでエッセイを描くのはとても難しいですね。情報を入れすぎてしまいます。

トニー 「起承転結」は習いましたか?

オーサ ……いいえ。

トニー その熟語を知らなくても、概念はご存知なんじゃないかな。起承転結って結構アジアの古いもの考え方なんです。「起」で状況を作って、「承」はなんでしたっけ(笑)、えーっと、ちょっと説明する…みたいな? で、「転」が大事で話が転がる、そして「結」で終わり。

小栗 マンガ家じゃない人が説明してる(笑)。でもそれが、マンガ大国日本では、あるとき吉田戦車先生によって起承転転でも起承承承でもOKというのが広まったと思う。シュールな天才が現れたことによって、受け止められる幅が大きくなった。

 

「外国人」というラベルは難しい課題

トニー 日本では外国人への接し方もずいぶん違いますね。エキゾチックなものとして捉えている。スウェーデンやドイツに比べると、社会の多様性が小さいからかな。どちらも、全然スウェーデン人らしくないスウェーデン人、ドイツ人らしくないドイツ人がたくさん住んでいるでしょう。

オーサ そうですね。日本の方が思うスウェーデン人は、私のようなブロンドで青い目だと思いますが、そうではない人がたくさんいます。だから、スウェーデンでは、外国人は特別な存在ではないですね。でも、私は日本ではやはり「外国人」です。それは仕方ないかなと思います。エキゾチックなものとして、好意的に接してくださるのは嬉しいんですけれど、ちょっと寂しいところもあります。私はどう頑張っても日本人にはなれないし、日本の社会に100%は入れないと思います。トニーさんはいかがでしたか?

トニー これは面白い問題で、ラフカディオ・ハーンを思い出しますね。

小栗 さかのぼるね。

トニー ハーンは明治時代に日本にやって来た御雇外国人ですけど、その後、小泉八雲と名乗って日本に同化しようとした。でも、その過程でお給料はすごく減っちゃった(笑)。「お客さん」として丁重に扱われていたんだけど、「お客さん」であることを止めようとすると、その扱いも終わってしまう。まだ、オーサさんは「お客さん」なのかもしれませんね。これから、それ以上の扱いを求めていくのか? それを日本社会はオーサさんをどう受け止めていくのか? 完全に同じではないけど、私も日本に20代で来たので状況は少し似ていますよね。私の友人で、やはり20代で日本に来て、日本語で勝負して小説を書いている人がいます。賞も取って高く評価されているんだけど、やはり「外国人小説家」と言われるんですね。それで納得するかどうか、すごく難しい問題だと思います。

小栗 これからますます日本には外国人が増えると思いますから、そうなるとまた状況が変わるかもだけど。

トニー 日本ではみんなが同じような環境で育っていて、同じルールを共有している。それが、多様性とぶつかり合うんでしょうね。それが将来、どう動いていくのか、というのは大きな課題だと思います。確実に変化すると思うんですが、激変はしないかもしれませんね。まだ「外国人○○」というラベルは残るかもしれません。でも同時に、外国人に対するもう少し違った接し方、考え方も生まれつつあると思います。

オーサ 私はこれからも日本で漫画を描き続けたいなと思います。それが夢ですし、もっとほかの国の人が描いたマンガが日本で読まれるようになるとうれしいです。

 

>>コミックエッセイ劇場はこちら<<