不快に思う人がいるのだから自重しろ ネットでの過剰反応はなぜ起こるのか

社会

公開日:2015/9/19

 「不快に思う人がいるのだから自重しろ!」ネット上でこのような言葉をみかけることは多い。

 「子どもが昆虫嫌いでノートが持てない」「表紙に昆虫写真があると、ノートを閉じられなくて困る」などの理由でジャポニカ学習帳から昆虫の表紙が消えたり、「あまりにリアルで辛すぎる」「就活生はいっぱいいっぱいなので、ネタにするな」という声があがり、就活生にお祈りメールが届く東京ガスのCMが中止になったりと、さまざまな場面で明らかな過剰反応が起こっている。

advertisement

 このようなネットの書き込みを見かけると内容はどうであれ、その過剰反応に対して、むしろ「自重しろ!」と言いたくなるようなことも多い。このような現象はなぜ起こるようになったのだろう。今年発売された『「過剰反応」社会の悪夢』(榎本博明/KADOKAWA)から、過剰反応が起こる理由について探ってみよう。

 本書には過剰反応が起こるさまざまな理由があげられているが、その中のひとつに過剰なお客さま扱いがあるという。

 現代社会では、買い物や食事など、どこへ行っても過剰なお客さま扱いをされることが多くなった。本書では、このようなお客さま扱いが当たり前になり「自分の言うことは何でも通るはず」、「自分は特別扱いされるはず」といった自己愛性パーソナリティ障害のような心理を生み出す原因となっていると言及する。自分の言い分が通らないと怒りだし、自分は絶対に正しいと信じ込み、自らを振り返ることはしない。それゆえ意見が対立すると相手が間違っていると思い込む。そして相手が折れないと攻撃モードになるといった心理が働いているという。

 また、日本企業はお客さま第一で、たとえクレームの妥当性が高いと確信できない場合でも謝罪することが多い。これは日本的な思いやりの心が働いており、ホンネを棚上げしてでも謝罪し、これ以上相手を傷つけまいとする心理だ。自分に非はないとどこまでも主張することの見苦しさ、大人げなさを感じるといった思いも働いている。しかし、グルーバル化の時代になると、これまでのように謝罪がコミュニケーションの潤滑油として機能しにくくなった。必要もないのに謝ると「謝罪したんだから責任をとれ!」などと、容赦ない責任追及をされることもある。

 特に最近はネットでクレームを言うことも可能だ。ネットは手軽さゆえに書き込みやすく広まりやすい。以前なら、個人の意見や要求を企業に届ける手段は少なかった。手紙を出しても返事がなく、電話をしても適当にあしらわれ、訪問しても門前払いということもあった。しかし、今ではメールで簡単に伝えることができる。メールを送っても企業側から反応がなければネット上に手軽に書き込むことも容易になった。それゆえ商品の欠陥などもすぐに広まってしまう。

 企業側も無視できず、きちんとした対応をするようになる。評判を落とすのを恐れ、正当性に欠けたクレームも門前払いすることはなくなった。これまでは個人を相手にしない企業も多かったが、個人の発言が大きな反響を呼ぶことになる。個人は自分の発言が影響力を持つことに快感を得ていく。また、企業も落ち度がなくても謝罪し、丁寧な対応をする。そのことで更に快感を得るようになる。このような悪循環が過剰反応の原因を作っている。

 これを防ぐには売る側と買う側が対等であることを意識する必要がある。店や企業側は、過剰なお客さま扱いをすることをやめ、理不尽なクレームや要求に対して言葉は丁寧でも毅然として退けることが大切だ。

 この過剰なお客さま扱いは過剰反応を起こすわずか一部の理由でしかない。過剰反応は社会におけるさまざまな不満やストレスなどさまざまな理由がある。過剰反応の世の中が生き辛いと思っている方は、本書を手に取ってほしい。理由を知ると、その過剰反応こそ不快と思う回数が減るに違いないだろう。

文=舟崎泉美