夫婦の、あるいは「幽霊と人間」の最後の旅路を描くラブストーリー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 『夏の庭 The Friends』などで知られる湯本香樹実の傑作小説『岸辺の旅』が映画化。本作で黒沢清監督は、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した。

 冒頭の夫婦の会話で、一息に引き込まれる。「おかえりなさい」「うん。どれぐらいだった?」「3年」「ああ、ずいぶんかかったなあ……俺、死んだよ」。妻(深津絵里)はそのことを受け入れ、夫(浅野忠信)が世話になった人々へお礼をする旅に、共に出ることになる。原作では全体に異世界ムードが漂っていたが、映画では幻想表現が少ない。その結果、夫が“こっち”にやってきた、という印象が強まっている。だからこそ妻は、原作にはなかった一言を、最後に投げかけることになったのかもしれない。

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 原作と映画を比べてみると、幽霊、夫婦、そしてバス――テーマといい道具立てといい、黒沢清監督がこれまで表現し続けていたモノが、原作の中に数多く入り込んでいる事実に驚く。黒沢監督の手により映画化されることは、この物語の夫婦の絆のように、運命の糸で堅く結ばれていたのだ。

文=吉田大助