「セックス」「妊娠」「母親」を一直線上で描きたかった 人気エッセイスト・LiLyの”セックスシリーズ”3冊連続文庫化!

恋愛・結婚

公開日:2015/9/25

In Bed with Lily
(Lily/KADOKAWA)
『Sex Talk with Lily』
(Lily/KADOKAWA)

 出版から8年の時を経て、熱狂的ファンをもつエッセイスト・LiLyの“セックスシリーズ”3部作が手に取りやすい形になって帰ってくる! 9月には『In Bed with Lily』(KADOKAWA)、10月には『Sex Talk with Lily』、11月には『Ninpu Talk with Lily』が、続々と文庫化するのだ。

 LiLyの作風を知る方は、どんなパンチの効いた女性かと思うはず。ところが、待ち合わせのカフェにいたのは、サングラスをかけたチャーミングな女性。でも、どう見てもタダモノじゃない! タバコをくわえて話す彼女の、あたたかみのある口調、よく笑う声、そしてちょっとだけ切ない気配に、早くも取材チームはメロメロに。

 命を燃やすように生き、女の人生に起きる恋愛やセックス、妊娠のリアルな体験談を私たちに教えてくれるLiLyは、美しくてかっこいい。現代をサバイバルする女たるもの、彼女を知らないのはもったいない。表情や声に至るまでお届けできないのは残念ですが、インタビューを通して、LiLyワールドのかけらを感じていただければうれしいです。

Lily

――このシリーズは、25歳のときに執筆されたものですよね。33歳になられた今、どうご覧になっていますか?

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 普段はあんまり読み返すことをしないんですけど、久しぶりにページをめくりました。実は、25歳の当時から、このエッセイには“20代独特の感情”を込めようと思ってて、「うわっ、懐かし!」っていう死語連発でいいと思いながら書いてきたんです。

 たとえば、当時流行していた「mixi」だったり、芸人さんのギャグだったり。というのも、mixiがはやってたときの女の子は、こういう恋愛の価値観だったんだというような“その時のリアル”を常に記録していきたいと思っていて。特に当時は、30代の作家さんはいっぱいいらっしゃるし、振り返って語られる20代はよくあるけど、現在進行形の20代を書けるのは“今の私”だけだ! と思ってたから。

 「サマンサタバサ」のような実在するブランドも、その時代の“記号”としてバンバン出しています。今を生きる私たちなら、サマンサを持つ主人公というだけで連想できる“背景”があるでしょう? 同じ時代を生きる女の子特有の“あるある”が通じればいいという気持ちなの。

だから、今読んだら若いと感じるかも……と思ったんだけど、33歳の自分が読んでも意外ととてもオトナだった、というか自分の軸が全く変わっていないことを再確認。あとは、キレッキレで面白くって!(笑)怖いもの知らずというか。20代の無敵な感じ、まぶしっ! みたいなね(笑)

――現代女子にとっての、この“わかる”感、たまらないものがありますね。でも、数あるテーマの中からセックスを選ばれたのはなぜ?

 日本にはセックストークがないと思ったから、ですね。日本って下ネタ大国で、電車に乗れば週刊誌の中吊りがあって、グロいくらいの下ネタが書いてある。海外では日本=変態のイメージがあるくらい。

 一方で、性に対してすごくマジメな“セックス=不順異性行為”みたいな認識があって。例えるなら、NHKか18禁しかない、みたいな。実際のセックスは、きっとその中間なのに。アメリカのTVドラマ『SEX AND THE CITY』みたいなセックストークを、東京の20代の女の子たちで描きたかった。

 私はオープンで赤裸々にみんなで話すタイプなんだけど、友達とセックスのことを話す関係にならない女性も多いですよね。そういう方に読んでもらえたらきっと楽しんでもらえるんじゃないかと、期待を込めてつくりました。

――文庫の装丁もおしゃれですね。このあたりもこだわった?

 もちろん! 私は書き始める前から、装丁のイメージを考えるタイプで、そのために本屋に写真集を見にでかけるくらい。執筆は孤独なレースだけど、装丁の打ち合わせはちょうど書き終わった頃に始まることもあって、デザートのよう。憧れのクリエイターに本の表紙を描いてもらえるのは、最高のご褒美です。

 8年前にこのシリーズを単行本で出したときの装丁は、ストライプにコラージュっぽく貼った私の写真だったんです。文庫としてリニューアルするには「今」っぽさを更新したかったので、今をトキメクmaegamimamiちゃんに、セックスに関して“裸になる”という意をこめて、ヌードの女の子を書き下ろしてもらったんです。mamiちゃんいわく、このコは私らしい(照)。

――内容は、1話完結で読みやすいし、登場人物が固定だから、読み進むにつれてホントの友達みたいに感じてきましたよ。

 本来なら女の子同士でお泊まりして思いっきり話したいけど、忙しいとできないし、いつもはセックスについて語らないリアルな女友達にいきなり爆弾赤裸裸トークを仕掛けたとしたら、それはそれで問題が生まれてくるかもでしょ?(笑) だから、読んで下さる方には、自分のベッドの中で「自分はこう思う」って考えながら読めるような、ガールズトークを一緒にできる“最高に楽しい女友達”みたいな本が作りたかったんです。

 ひとりの時間にいつでも会える、絶対にトラブルに巻き込まれない女友達(本)だから、人間関係に疲れた時もおすすめかも。超気持ちいいベッドの中で、目覚ましをかけなくていい休日の前夜に、あるいは女友達と飲みに出かける体力がない平日の夜に、読んで、爆笑して女って最高! と思ってくれたら私、アガる(笑)!

――登場人物である仲良し5人組は、みんなちょっと狂っててキュートなところは似てますが、性格は見事なまでにバラバラ。これはあえて?

 そう。それぞれ違う価値観を持った人を書きたかったから、年齢、設定、全然ちがうセックス観を持つ5人を登場させました。

 結婚したことで離れていく登場人物もいれば、その代わりに新しく輪に入ってくるキャラがいたり、1巻(In Bed with LiLy)の終わりで離れたキャラが、LiLy(私)が妊娠したことで再び3巻(Ninpu Talk with LiLy)で戻ってきたり。そういうところも含めてのこのシリーズではリアルな“女の友情”感を描きたかったのです。

――友達って、自分がいるステージによってくっついたり離れたりしますもんね。その点、「セックス(独身)」と「妊婦(既婚)」はステージが異なるイメージがあるけど、同じシリーズに含めたのはなぜ?

さっき、日本のセックストークには中間がないって言ったけれど、それは妊婦や母に対しても同じ。妊娠した途端、女性は“母親という神聖なイメージ”にされて、恋やセックスから遠ざけられちゃう傾向がある。“女”から“妊婦”、そして“母親”になったとき、自分自身はひとりなのに、世間のイメージとのギャップに苦しむ人はきっといるはず。「セックス」、「妊娠」、「母親」を一直線上で描きたいというのは、このシリーズのそもそもの目的なのです。当たり前のことだけど、私たちは女で恋をしてセックスをしたからお母さんになったんだよ?っていう、その流れを、美化しすぎることなく描きたくて。

 私のデビュー作は恋愛エッセイ。ひとりの女の子が、恋をして、セックスをして、妊娠して、母になって―――。すべて同じ軸でつながっているものだから、このシリーズはもと続けて書いていきたいです。いずれは「妊婦トーク」に続く「ママトーク」も書く予定。

――ご自身も2児のママであり、育児をしながら多数の連載を抱えられて。普段はどのように執筆されてるの?

 育児と仕事は、音楽をスイッチにして切り替えてます。小説やエッセイごとに主題歌を決めて、中断してもその音楽を聴くと中断前のテンションに戻れるように。曲はヒップホップやジャジーな洋楽が多いかな。

 作家って「ディスられたらヤだな」って思ったら終わりだと思うの。もちろん私もディスられたくないし、人を傷つけたくないよ! でも、弱気になって言い訳するみたいに「〜かもしれないですよね。〜ヒトによるかなあ?」なんてグダグダ書いていたら、何も刺さらなくなっちゃう。だからヒップホップ聴いて、強気になって「こういう奴は大嫌いだ、まるっ」って(笑)。

 あとは、午前中から超エロいシーンとか官能小説とかを書かなきゃいけないから、地下に潜るようにして色っぽい音楽で酔っぱらうの。で、書き終わったあとは、お母さんに戻るためにJ-POPを聴いて、普通のテンションに戻しながらお迎えにいきます(笑)。

――壮絶な執筆風景が見えてきました。そういえば、リリーさんは25歳のデビューからちょうど来年で10周年。これまでを振り返ってみていかがですか?

 20代のときは、とにかく“私が考えていることを知って欲しい!”みたいな自己顕示欲からエッセイを書きまくっていたように思います(笑)。今は、自己顕示欲はその頃よりずっと減って、もっと作品そのものに向き合えるようになったな、と。どちらも良いけれど、デビュー作の頃の“私をみて!”という若さからくるオラオラな勢いも、振り返るととても眩しいです。

 オリジナルでは18冊、アンソロジーなどを含めると20冊以上の本を出版させて頂いて、プライベートでは、結婚、二度の出産、育児に仕事、そして最近は夫婦という関係に疑問を持ったことで籍を抜いて(今も家族四人で暮らしているのですが)、まぁ、濃厚すぎる9年間ですね。

――恋愛、結婚、妊娠、出産、離婚。女性が人生をかけて経験するようなことをこの10年で一気に駆け抜けてこられたんですね。

 最近、20歳で出産した女友達が「娘が10代にになってオトナびていくにつれて、私がティーンエイジャーに戻っていく」って言ったの。お母さんモードから、少しずつまたそれ以前の自分の姿を取り戻して、娘とも少しずつ対等な関係になっていくというか。子供も、恋をすれば、自分の恋愛がメインになって、親のことは二の次になっていく。そういう風になったときに、心配も増すだろうけど、親も親で、少しずつ肩の荷が降りていく。だから私もいつかその日が来たら、再び1作目の心境に戻ると思うんだ。5歳と3歳の子供たちは最高にかわいくて今も幸せだけど、オトナになったふたりと、「最近どうよ?」って、それぞれの近況を報告し合う未来がすごく楽しみ。

――山あり谷ありながらも、女の人生を謳歌されてる感じがまぶしい……!「アタシまじ男に生まれればよかった」と思う女性も多いと思うんですが、女を楽しむコツってありますか?

 男に生まれたかったってのは、わかる! 私もこれまでは「ネイル塗るだけでアゲ」みたいな話を聞いて「はー? それだけで、ほんとかよ(笑)」と思ってたクチなんだけど。でも、最近その気持ちがすごくわかるの。今更だけど(笑)

 大好きな香りのボディクリームを塗ったり、明日の朝の肌の調子を楽しんでパックしたり。そういうチマチマしたことに救いを見出す自分って女だなぁって。“女子力”とかそんな他人目線を意識したものじゃなくて、「自分をちゃんとコントロールできている」ということに救われるんですよね。明日の肌までメンテナンスできている、自分をちゃんと飼いならせている自分に安心する。

 男性はいっぱい稼いだり、出世したりしなきゃ「俺は大丈夫」って思えない人も多いかもしれないけど、女性は爪を一本塗っただけで「あたしは大丈夫」と思って、気持ちをアゲていける。そこはとっても幸せだなって。

――確かに女って、ちょっとしたことでアゲアゲになれちゃう生き物かも。

 それに、女で仕事がんばってるとコスパが高いっ! 育児って、女性がするのは当たり前に受け取られるけど、男の人がちょっとやると“イクメン”だと褒められる。そういうのってとてもズルイわけだけど、実は仕事も同じで、男性がしても普通だけど、女性がしてたらかっこいいと必要以上に評価される。

 「お母さんだから、それはしちゃダメ」って言われることも多いんだけど、いいところと悪いところは背中あわせ。ダメっていわれることに押しつぶされてしまうより「お母さんなのにスゴイ!」って言われることを伸ばしていって、自分の中でバランスをとりたいな、と。まぁ、働く母の日常ってすごく大変なので、精神的な安定を保つための、ただの私なりのコツですが……。

――性差別を逆手にとって、女性がすると褒められるコスパのいいところを攻めていくんですね。リリーさんからはいつも逞しいサバイバル魂を感じるんですが、憧れの人っていますか?

 好きな人は尊敬する人はたくさんいますけど、憧れるという感覚が私にはあまりないかも……。(しばらく考えて)あ、ひとり、いた。Jay Z(ジェイジー、アメリカのラッパー)。だって、あのビヨンセが妻だよ!? イケメンでもないのに……これぞアメリカンドリーム。私、下克上が好きです。つらく貧しい環境から這い上がって天下を取る、というような、ハングリーでアツい人に憧れます。

――なんか今、超カッコいいおばあちゃんになってる未来が見えました。では最後に、今後の展開を聞かせてください。

 今後、このシリーズの続編として書きたいものは2つあります。1つは、冒頭でもお話ししたように、「妊婦トーク」に続く「ママトーク」。もう1つは、「ベッド」の前、生理が始まる10歳前後の女の子に向けた「初潮」や「初セックス」をテーマにしたもの。

というのも、「初潮」「初めてのセックス」「出産」って、それぞれが血を見るタイミングなんだけど、これらをどう体験するかは女の子にとってとても大事、というか。娘ができたことで特に思うことですが、女というだけでセックスは男性よりリスクが高い。だからその分、かしこく、自分を大事に生きていくことがすごく大事だな、と。

 私、10歳のときに、母から生理について書いてある可愛いピンク色の本をもらったんです。その時に、オトナ扱いされた嬉しさや、内緒話のようなこそばゆさから、生理に恋焦がれたの。だから、生理が来たときはすごくうれしかった。初めてのセックスも、幸せすぎて涙が出た。

 私は、女でいることが嫌いだと思うことも多いんだけど、でもヒトからよく“女でいることを最高に楽しんでいるようにみえる”と言ってもらえることが多くて。なぜかを考えたら、そういうことを積み重ねてきたからじゃないかと思ったんです。だから、10代の女の子をハッピーにする本をこのシリーズで作りたいと思っています。10代、というか、10歳、ピンポイントですね!

――実現したら、若き日のLiLyや玲子、樹里たちに会えるんですね。とっくに10代を終えちゃった身ですが、これはこれで楽しみです。ファンのみなさん、『ママトーク』とともに10代編にも期待しましょ! LiLyさん、ありがとうございました。

取材・文=矢口あやは