まさに垂涎!『孤独のグルメ』18年ぶりの新刊レビュー 次の「聖地」は汁おでん? ペルー料理? スラーメン?

マンガ

更新日:2015/10/7

 ここ数年、ひとりで寂しくご飯を食べることを“ぼっち飯”と呼び、なかばバカにする風潮がある。しかし、そんな“ぼっち飯”の時間を、とても幸福なものとして描いているマンガがある。そう、『孤独のグルメ』(久住昌之:原作、谷口ジロー:作画/扶桑社)だ。本作は、松重豊の主演で実写ドラマ化され、中年男性・井之頭五郎がただひとりでご飯を食べるという地味な内容ながらも、非常にコアなファンを獲得。なんとシーズン4まで制作され、この10月からはシーズン5の放送が控えている。

 そして、原作コミックにかんしても、18年ぶりの待望の新刊が9月29日に発売された! 本作のファンにとっては、新刊発売とドラマの新シーズン放送とが重なり、まさに盆と正月がいっぺんにやって来るほどの喜びではないだろうか。と、ここで、新刊情報が待ちきれない人たちのために、気になる内容をちょっとだけ紹介しようと思う。

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 新刊で五郎が食べ歩くのは、「静岡・青葉横丁の汁おでん」「東京都新宿区信濃町のペルー料理」「鳥取県鳥取市役所のスラーメン」「パリのアルジェリア料理」など、国内外を問わず、実にさまざま。そのすべてがおいしそうで、ページをめくるだけでよだれが垂れてきそうだ…。


 たとえば、静岡の汁おでん。夜風に吹かれて少し温まりたくなった五郎は、静岡名物のおでんを食べることを決意する。けれど、下戸の五郎が入った店は、おでんはおでんでも「汁おでん」を出す店だった。この汁おでんとは、汁がカラシになっているという一風変わったもの。あー、ちょっと店を間違えたかな。俺は普通の静岡おでんが食べたかったのに…。落胆したのも束の間、件の汁おでんを食べてビックリ! 唐辛子を溶かしこんである汁とおでんネタとは好相性で、後を引くおいしさ。そこで食欲に火がつき、「焼き海苔黒はんぺん」や「むかご」など、その店独特のメニューを次々と注文するも、すべて平らげてしまう。そして五郎が出した結論は、「名物にとらわれなくてもいい。自分がおいしけりゃ」とのこと。


 食事中の五郎は終始この調子で、予想外の味に落胆したり、意外な組み合わせに驚嘆したり、昔を思い出してしみじみしたり、とまさにジェットコースターのように喜怒哀楽が入れかわっていく。しかし、それはあくまでも五郎の心の中、の話。傍目には、ただ淡々と食事を平らげているだけなのだ。そして、それが本作で一番おもしろいところ。ひとり寂しく食事をとっているように見えて、その胸中は、誰よりも食べることを楽しんでいる。本作を読んでいると、“ぼっち飯”も案外悪くないかも…なんて思えてくるくらいだ。

 そうそう、本作に登場する飲食店は、いずれも実在するお店だというのも有名な話。コアなファンの中には、五郎が訪れた店を、“聖地巡礼”する人もいるほど。となると、新刊が発売された暁には、各地で“聖地巡礼”に勤しむファンが続出するに違いない。あぁ、食欲の秋は、本作を思い切り楽しめそうだ!

文=前田レゴ