箱根駅伝で奇跡の爆走を実現! 青学選手のコアを支える“青トレ”の秘密とは!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/18

  来年も、1月2日・3日に開催される予定の、2016年「第92回箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)」。早いもので、開催までもう100日をきってしまった。今年の予選会は10月17日に予定され、果たしてどんなドラマが繰り広げられるのか、駅伝ファンにとっては、早くも心躍るシーズンに突入している。

 そんな中、前回の箱根駅伝で、ワクワクするような劇的勝利を果たした青山学院大学駅伝チームのトレーニング法を伝授する書籍、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(原 晋・中野ジェームズ修一:著/徳間書店)が発売された。表紙カバーには「ランニングの新しい教科書」「結果が出せる青学メソッド教えます!!」などのキャッチフレーズが並び、“青学選手といっしょにトレーニングができる”DVDもセットされている。

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 指導するのは日本における体幹トレーニングの先駆者であり第一人者である、中野ジェームズ修一氏。近年、スポーツ科学は革新的であり、第一線で活躍するアスリートたちは科学的な知見にもとづくトレーニングの活用で記録を更新し、進化を遂げている。原監督が選手たちのフィジカルトレーナーを依頼した中野氏が、彼らにいちばん最初に伝えたファーストメソッドを、本書では厳選して、紹介しているという。より安全に、速く走れるためのメソッドとは、いったいどのようなものなのか。ランニングに適したコアトレーニングやランナーに必要なストレッチが盛り込まれているという、あの奇跡の快走を生み出し支えた驚異の身体強化法を、本書からご紹介してみたい。

青トレの3つのステップ

 そもそも「青トレ」とは何なのか? 走ることに関しては自信があっても、体幹を鍛える指導にはどこか限界を感じていたという、原監督。走るために鍛えるべき筋肉には重要度があり、トレーニングの優先順位が存在する。そこで選手たちのコアトレーニングを強化するべく専門家である中野氏に選手のトレーニングを見直してもらい、新たに考案されたのが、「青トレ」だという。

 速く走るためにはまず、体幹がしっかりしていることが必須条件。さらに、腕の振りを向上させ推進力を増すためには肩甲骨を、ストライド(一歩の長さ)を広げるためには股関節が、自在にぐるぐる動かなければならない。そのためにコアトレで体幹を鍛えつつ、動的なストレッチで体を温め、間接の可動域を広げてゆく。そのトレーニングは大きく3種類に分けられている(下記のステップで行われる)。

<1> コアトレーニング
 長距離ランナーに必要な「安定したブレのないフォーム」を手に入れるための、腹部をコルセットのように包む筋肉群〈インナーユニット〉のトレーニング(計23種)

<2> ストレッチ
 運動前に体を温める動的ストレッチ+運動後にクールダウンさせる静的ストレッチの両方を行う(計19種)

<3> 筋弛緩法+セルフモビライゼーション
 トレーニング後の素早い疲労回復を促すため、就寝前に筋肉の緊張状態をリセットして体をリラックスさせ、入眠に導く(計7種)

 注意したいのは、インナーユニットがうまく使えない状態で先のステップに進んでも、あまり成果は得られないということだ。青学の選手たちも最初の基本動作が正しくできるようになるまで4〜5カ月ほどかかったという。市民ランナーの場合、最初の基本動作をクリアするまで半年ぐらいかかると、長いレンジでとらえたほうがよさそうだ。

「青トレ」の基本をふまえたところで、DVDを見ながら“新・山の神”の異名をとった神野大地選手とともに、ステップ1最初の基本の動作で、インナーユニットの使い方にトライしてみる。

「ドローインLEVEL1 背臥位・膝立て」(<ステップ1>より)

1)仰向けに寝て両膝を立て、鼻から息を吸ってお腹を膨らませながら、腰を意識的に大きく反らせる
2)息を吐きながら、腹横筋を使って4秒かけて腰を床まで押し下げる。肛門を軽く締め、骨盤底筋群を連動させる。この動作を習得できるまでくり返し行う

文字にすると一見簡単そうだが、いざ試してみると、日頃の運動不足のなせるわざか、微妙な腹の動きがまったくできない。DVD内の中野氏は「首にも肩にも腹にも力を入れてはいけない」と説くが、最初はその要領がつかめない。コアトレーニングに不慣れな方は大きな鏡を横に置き、自分の体の動きを目で確認しながら行うことをおすすめする。

 一方、実演する神野選手の軽快な体の動きはさすがで、思わず「ほー」と目を見張る。筋肉のすみずみまで意志的に動かすことができるトップ選手の凄さを、実感する瞬間だ。

 次に、寝る前に行うとよく眠れるという、筋弛緩法を試してみた。青学選手たちは皆、毎晩これを行ってから眠りについているらしい。DVDでは小椋裕介選手が実演する。

「就寝前やレース前などに行う筋弛緩法 肩から首にかけて緩める」(<ステップ3>より)

1)仰向けに横になった状態で、15秒ほど、6割程度の力で両肩をグッと上にすくめ、力を入れて緊張させる。息は止めずに自然呼吸
2)次に、肩の力を一気に抜いて脱力させ、30秒ほどリラックスした状態をキープする。これを2~3セット繰り返す

 中野氏の説明に従って行ってみると、今度はどうにかできたようだ。ただし「10割の力ではなく、6割の力で行ってください」と言われても、最初はどの程度が自分の6割なのだか、自分にはなかなかわからない。「肩を緊張させた時間の倍の時間をかけて、筋肉が脱力した状態を味わってください」とのことで、つかのまリラックス状態を体全体で受け止めてみる。うん。これは肩コリにも効くかもしれない。

 この「青トレ」導入以降、選手たちはウエストまわりがきゅっと絞れて故障も減り、腕振りがスムーズになったという。原監督も「私のチームの選手は、走り方がかっこいいな!」と喜ばしく感じたそうだ。そしてその地道なトレーニングを積み上げた結果が、前回の見事な快走、爆走につながったのだ。

 そして「青トレ」のごく一部を実際に試してみて感じたのは、自分の体や筋肉に対し、これまでいかに無自覚に過ごしてきたかということの発見だった。だが、それでも、意識したことのない腹横筋のありかを捉えようと腹に意識を集中し、6割の力で肩を持ち上げるとはこんな感じか? と試行錯誤しながら自分の体の声に耳を澄ませてみる体験は、とても貴重な試みだった。

 本書はトレーニング解説オンリーではなく、原監督のコラムや、エース選手や次世代エース候補選手たちへのQ&Aコーナーなども設けられている。青学選手たちの素顔や寮生活に迫るスペシャルコーナーは純粋に「青学駅伝ファン」としての視点で楽しめるし、原監督がこれまでどのようにしてチーム作りをしてきたかを明かすコラムには、監督流の組織運営の哲学が流れており、一社会人としても参考になる。

「青トレ」のコアを知り、それらを実際に自らの体で体感してみることによって、この緻密で地道な研鑽を日々積み上げている青学選手たちの凄さを、よりリアルに理解することができるだろう。神野選手によれば「青トレは何よりも走りに生きている。走っていて、コアトレの効果が実感できる」そうだ。原監督と中野氏は、青学が常勝軍団となることを目指しているというが、果たして2016年の箱根駅伝では、どのような結果を見せてくれるのか。さらに磨きがかかった、青学選手たちのミラクルな走りに期待したい。

文=タニハタ マユミ