便利なネット通販の陰から運送会社の悲鳴が聞こえる? 衝撃の宅配ビジネスノンフィクション

業界・企業

公開日:2015/10/8

『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』 (鈴木瑞穂/日本経済新聞出版社)
『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(鈴木瑞穂/日本経済新聞出版社)

 今年は物流業界の話題が絶えない。3月末には、信書の取り扱いにおけるリスクを回避するために、クロネコヤマトのメール便が廃止された。さらに、11月4日に関連3社の株式上場が予定される日本郵政グループが、オーストラリア大手の物流会社、トール・ホールディングスの買収を発表するなど、私達にも身近な郵便や宅配便にまつわる環境がめまぐるしく変化している。

 そして近年、宅配便が当たり前のように使われるものの1つがネット通販だ。経済産業省の発表によれば、2014年の消費者向け市場規模は12.8兆円。前年比14.6%増となっているのに加えて、2020年には20兆円台にまで成長するとみられている。

 消費者にしてみれば非常に便利なサービスであるものの、その一方で、悲鳴を上げているのが運送会社である。書籍『仁義なき宅配 ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン』(横田増生 著/小学館)では、潜入取材などを通してその実態が克明に記録されている。

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 同書にて著者は、今や常套句にもなった「送料無料」という言葉が「宅配業界に大きな歪(ひず)みとなって現れており、現場や労働者へのしわ寄せの原因となっている」と指摘している。その一端を強く表すのが、2013年春、佐川急便が大手通販サイト・Amazonの事業から撤退したことだった。

 2000年11月に日本へ上陸した「Amazon.co.jp」は、当初、日本通運がその物流を担っていた。当時は「1500円以上の買い物をすると送料無料になる」というシステムであったものの、日本での業務拡大の目玉として「全品送料無料」を導入、2005年から、佐川急便が破格の運賃により業務を請け負い始めた。

 本来、佐川急便の運賃は関東地方内の最安料金で750円台、関東発北海道着であれば1100円台からであるものの、Amazonとの契約は「全国一律で250円台をわずかに上回る金額」だったという。さらに、同書への取材に応じた佐川急便の営業マンは「結局、得したのは荷主ばかりで、宅配業者はその分、経営の体力が奪われていきました」とネット通販の台頭による変化を指摘している。

「ネット通販企業は、2、3年に一度の割合で、宅配業者のコンペを開くんです。そこで行われるのは“運賃叩き”です。運がよくって、運賃の現状維持。運賃の値下げとなることの方が圧倒的に多いんです」

 また、都内の営業所に勤務する別の営業マンは、現場の変化を以下のように語る。

「うちの営業所では、Amazonの荷物を早朝に流すようにしていました。取引開始後、急に1日2,000個前後の荷物がラインに入ってくるようになりました。営業所内のベルトコンベアで流して方面別に仕分けるんですけれど、当時は1時間連続で、Amazonの荷物だけを流していましたね。荷物量ではダントツでしたが、運賃では最も安いグループに入っていました」

 契約を解消する前年、運賃交渉に挑んだ佐川急便の営業マンは「受け取っていた運賃が仮に270円だったとすれば、それを20円ほど上げてほしいという腹積もりで交渉に臨みました。けれど、Amazonは、宅配便の運賃をさらに下げ、しかもメール便でも判取り(受取人の捺印又はサインをもらうこと)をするようにと要求してきたのです」と当時を振り返ると共に、「うちはボランテイア企業じゃない」と思いを口にしていた。

 2010年以降、ネット通販の成長により「(物流)業界は混戦模様を深め、大きな地殻変動の予兆が現れてきた」と著者は指摘する。Amazonを利用していると、時たま通常の注文であっても翌日早々に届いたりと驚かされる時もある。しかし、その陰では物流に携わる人々の存在が欠かせない。著者は同書にて、宅配ドライバーの助手や物流センターの倉庫係として、潜入取材によりその実態を伝えているが、裏側をぜひ覗いてみてほしい。

文=カネコシュウヘイ