真田幸村が中小企業の社長に!? 斬新な戦国マンガが激アツ【著者インタビュー】

社会

公開日:2015/10/13

『もしも真田幸村が中小企業の社長だったなら』(井上ミノル/創元社)
『もしも真田幸村が中小企業の社長だったなら』(井上ミノル/創元社)

 ゲームのイケメンキャラクターとしてお馴染みの真田幸村。2016年、NHK大河の主役も決定し、いま最もアツい戦国武将である。とはいえ、女性にはとっつきにくい戦国時代。真田幸村ってなにをした人なの? 英雄扱いなのはなぜ? 分からないことが多すぎる…。

 そこで、今年8月に『もしも真田幸村が中小企業の社長だったなら』(創元社)を出版したイラストレーターの井上ミノルさんに解説していただいた。

――真田幸村はどんな武将だったのでしょうか?

advertisement

井上ミノル(以下、井上):若くてイケメンのイメージが強いですが、幸村が活躍したのは47~48歳の1年間だけなので、実際は中年のおじさんですね(笑)。ゲームでは「武田信玄の直属の部下」という設定ですが、信玄とは時代もかぶっていません。猿飛佐助ら忍びを使いこなして大活躍、といった事実もないですね。33歳から47歳まで幽閉されていて、死ぬ前の1年間だけ、大坂の陣で活躍した人です。

――大坂の陣ではどのような活躍を?

井上ミノル(以下、井上):冬の陣では、真田丸という要塞を作って成功をおさめ、夏の陣では家康に死を覚悟させるほど追い詰めて、徳川軍に「日本一(ひのもといち)の兵(つわもの)」と大絶賛されました。でも幸村の活躍って、ほんまに大坂の陣だけなんですよ。それ以前はまったくなにもしていないというか。ほぼなんの記録も残っていないんです。

――「中小企業の社長」に喩えようと思ったのはなぜですか?

井上ミノル(以下、井上):戦国時代って、私たちが思っているほど主従関係が強くないんです。イメージだと、主の言うこと絶対、みたいな感じじゃないですか。でも実際はもっとドライというか、利益ないなと思ったらこっちの人に就こう、とか、こっちが倒産したからこっち、みたいな。王様と家来というよりは、取引先くらいのビジネスライクな感じなので、企業に喩えたらしっくりいくかなと思いました。

――幸村の会社は製靴メーカー、大坂の陣は百貨店戦争、という設定ですね。史実の細かいところがピタッとはまっています。

井上ミノル(以下、井上):最初、家電メーカーにしようとしたんですよ。夏の陣、冬の陣といったら、ボーナス商戦かなと思って。でもうまいことハマらなくて行き詰ってしまったんです。洗濯機の修理にきたメーカーのお兄さんに、「部品でなにが大事ですか?」と聞いたら、「コンプレッサーが重要です」と言われて、コンプレッサーについてすごい調べたりとか(笑)。それが、百貨店にしたらすんなりハマったんです。百貨店って、いろんな部門があったり、催事があったりするので、人物や出来事を当てはめやすかったんですよね。


――「衆道」についての記述が衝撃的でした。BLのような…?

井上ミノル(以下、井上):武士の間、とりわけ主従関係での同性愛が、ごくごく普通のことだったんです。戦場で生きるか死ぬか、というアドレナリンが出っ放しの状態で、吊り橋効果のような。男同士の絆と恋愛感情が、区別つかなくなっていたんじゃないかと。いまとは道徳観念も違いますし。日本って昔は、異性間でも同性間でも性にオープンだったんですよね。戦場には女性も一緒だったみたいなので、女性の代わりというよりは、女は女で、それとはべつに男同士の繫がりというか。衆道というのがツールとしてあったんだろうなと思います。伊達政宗の手紙なんかは直筆で残っていて、片倉重綱とはほんとに衆道関係だったそうです。重綱は相当な男前やったらしいです。

――幸村の魅力はどんなところでしょうか?

井上ミノル(以下、井上):芽の出ない人生を送ってきて、最後あれだけ活躍できるってすごいと思うんですよ。負けはしたんですけど、死に様は敵にも天晴れと言われて。幸村の死後、幸村の子供たちはいろんな人から守られるんですよ。伊達政宗は幸村の次男・守信と、娘の阿梅を引き取ります。徳川の圧力がすごいなか、嘘の情報を流してまで幸村の子たちを守るんですよね。それは幸村の血を絶やしてはいけない、という思いもあったんではないかと。幸村の兄である信之も幸村のことを尊敬していて、あいつは俺とは違う、と褒めています。歴史的にいったらそこまで目立った活躍をしたわけでもないですが、魅力的なパーソナリティーの人やったんじゃないかと思います。


 歴史を学ぶうえで最も難しいのは、人物のキャラクターを掴むことではないかと思う。漫画という手法は、まさにキャラクターを描くことに他ならない。本書を読めば、真田幸村がどのような性格で、ゆえにどのような行動をとったか。周囲との関係はどうだったか。大枠が掴めるはず。来年の大河を前に、ぜひ手に取っておきたい一冊だ。

文=尾崎ムギ子