NHK朝ドラ『あさが来た』波瑠が演じるヒロインのモデル・広岡浅子って何者?

テレビ

更新日:2015/10/19

 9月28日の初回は視聴率21.2%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と好発進のNHK連続テレビ小説『あさが来た』。前作『まれ』に対して、今度は『花子とアン』や『マッサン』と同様に主人公は実在の人物がモデル。リアルかつドラマチックな展開が期待される。

 しかし、その主人公のモデルが女性実業家である広岡浅子と聞いても、『赤毛のアン』の作者である村岡花子などと違っていまいちピンとこないのだが…。実業家といっても、いったい何をどうしたのだろうか? そこで、ご本人が書き残してくれた『超訳 広岡浅子自伝』(KADOKAWA/中経出版)をもと にその人物を解き明かしたい。

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 まず、今回のドラマではモデルとなった人物や団体が改名されている。広岡浅子は女優の波瑠が“白岡あさ”という名で演じている。実家は“今井家”とされるが、実際には豪商・三井家の生まれ。近代に入ると財閥へと成長する豪商中の豪商だ。そんなお家柄のために、2歳のときにはすでに許嫁がいたという。それが、玉木宏演じる両替屋“加野屋”の次男“白岡新次郎”である。

 NHKのホームページでは、この2人を“激動の時代の大阪を明るく元気に駆け抜けたおてんば娘と陽気にヒロインを支え続けたボンボン夫の「おもろい夫婦」”と紹介している。一日の始まりに見る朝ドラにふさわしく、とても元気がもらえそうな雰囲気だ。実際、波瑠のおてんばぶりは見ていてすがすがしい。それに宮崎あおい演じる姉の夫となる柄本佑が嫌な雰囲気を醸し出すなか、玉木宏のおおらかで優しげな様子は好感がもてる。『マッサン』の玉山鉄二とシャーロットのような二人三脚のおしどり夫婦が期待できそうだ。

 しかし、本書には残念ながら、この夫の“白岡新次郎”こと、豪商・加島屋の広岡信五郎についてあまり詳しく書かれていない。少しだけ触れているのだが、そのひとつを引用すると次の通り。

「私には他人と違って甘えた経験が少しもありません。父も母も、夫までも私が甘えるどころか、皆私を頼りとしていたのです」

 現実では、ボンボン夫はボンボン夫のままであり続けたらしい。このために、浅子は明治維新が起こって大阪の商人が大混乱に陥ったとき、商売丸投げ状態の夫はあてにならないと自ら新たな事業に乗り出す。まず手をつけたのが、福岡の炭鉱を買収して行った鉱山経営。荒くれ男たちと生活をともにしたとか。また、明治21年には加島銀行を設立し、明治35年には大同生命の創業に参画した。

 だが、少女時代から学問不要とされた女性の境遇 に疑問をもち続けていたという 浅子。彼女の最も特筆すべき事業は、明治34 年の日本女子大学校(現在の日本女子大学)創立時に発起者の一人になったことのようだ。大学のために三井家から土地を寄贈させたという 。必ずしも快くは思ってなかった 生家をうまく利用した わけだ。

 浅子が日本女子大学校で行った講演では、「男女は能力や胆力においては特別の相違はありません。それどころか、女子は男子にさほど劣らない」と語っている。この信念を貫き通して男性完全優位の時代を生き抜いた浅子は、当然並大抵の人物ではなかっただろう。亡くなったときには、日本女子大学校評議員だった大隈重信からの弔辞で、「ある一部分の人からは多少の誤解を受けましたが…」などと言われている。さらに、雑誌や新聞に寄せられた追悼でも次のように評された。

「好き嫌いがはっきりしており、人を厳しく批評した」

「剛情で世間や人を恐れず(時にかんしゃくとなって破裂)、善悪正邪の意見を直言するため、言葉が心より過激になることがあった。しかし、心情は公明正大で私心がなかった」

 なかなか難しい人物だったのかもしれない。だが、そうしてやり遂げた事業を思えば、まさに女傑と呼ばれるにふさわしい。

 さて、なんだか波瑠演じる“白岡あさ”とはだいぶ違った様相を呈しているが、NHKも実在の人物はあくまでモデルであってドラマはフィクションであると述べている。史実を忠実に描くならば、激動の時代を生き抜いた女性の一代記として、朝ドラより大河ドラマの方がふさわしそうだ(もっとも、現在放送中の『花燃ゆ』の主人公のように、それほど知名度はないと反感をくらいそうだが…)。

 もしも広岡浅子本人が今回の朝ドラを見ることができるならば、ターニングポイントとなる出来事は同じでも、夫に支えられながらともに困難を乗り越え、(おそらく周囲にそれほど誤解されたり、かんしゃくを起こしたりすることなく)明るく爽やかな“白岡あさ”をうらやましく思ったかも?

文=林らいみ