社会人の今だからこそ「大学院でインプットする」という選択

暮らし

公開日:2015/10/20

『突撃! オトナの大学院』(森井 ユカ/主婦と生活社)
『突撃! オトナの大学院』(森井 ユカ/主婦と生活社)

 社会人生活はアウトプットの連続だ。企画、会議、プレゼン、営業や制作…毎日同じことの繰り返しで、引き出しがどんどん少なくなる。しかし、インプットをする余裕はあまりない。ある日、中身がカラッポになっている自分に気づき、あぜんとする。すでにそんなお手上げ状態だ、という人がいるかもしれない。

 『突撃! オトナの大学院』(主婦と生活社)の著者・森井ユカ氏は42歳になったばかりのとき、ふと「ストックがない」自分に気づき、焦ったという。人生は残り半分もある。この先を乗りきれるのか。小出しにしながら、だましだましで生きていくのか。自己変革のためにインプットが必要だと考えた森井氏がひらめいたのは「大学に行くこと」。自学でもインプットはできるが、最高学府で最先端の知識や技術を取り入れることが最良の道に違いない。しかし、冷静になって考えてみると、社会人が大学で4年間も朝から夕方までみっちりと授業を受けるなんて、まず時間的に相当きびしい。デザイン会社の代表にして、専門学校で非常勤講師を務める森井氏は、仕事を続けながら学べる方法がないかを模索する。見つけた方法は「大学院に行くこと」。

 じつは、大学院なら大学に比べ授業時間が少なく、より専門的な研究ができる。また、独自に設定されている入学資格審査(能力や職歴、資格などが審査される)をパスすれば、学部の4年間を飛び級して他の受験生と同じスタートラインで受験できる場合がある。1999年に学校教育法が改正され、大学院の入学資格が緩和されたため、例えば最終学歴が中学卒業だとしても、日本の大学院のほとんどに入れるチャンスがあるのだ。

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 森井氏はこれまでのキャリアと、今後の仕事や展開を考えたときに、デザイン科がある美術系大学を選択。大学選びから受験までの流れは、大きく次の10ステップを踏んだ。

(1)学校案内を取り寄せる
(2)オープンキャンパスに参加(ここで学校案内をもらうこともできる)
(3)受験する大学院に検定料を振り込む
(4)研究計画書を作成する
(5)担当教授を決める
(6)願書提出と事前審査
(7)受験票などが届く(ここで、必要なら教育ローンなどの申し込み)
(8)受験
(9)合格発表
(10)入学式

 森井氏がとくに骨を折ったのは、まず「学費」。比較的高額な美大の額は、2年間でじつに300万円超え。貯金ではとうてい足りず、ローンを組むこととなる。このローン借り入れは、受験結果が不合格だった場合にキャンセルできるものを選んだという。その次に苦労したのが「研究計画書の作成」と「担当教授の決定」。氏が受験した大学院では、研究するテーマについてその意味、意義、位置付けと重要性を所定の項目にもとづいてまとめ、教えてもらいたい教授に個人的にアポイントを取り、「研究計画書」を見てもらったうえで合格後に担当になってもらう確約をとりつけなければならなかった。

 肝心な受験の科目は「小論文(800~1200文字/90分)」「面接」「ポートフォリオまたは論文の提出」の3つ。多くの大学院では、これに加えて「語学」の試験があるため、仕事帰りに英語の予備校に通う社会人受験生が少なくないという。

 ちなみに、2年間の大学院生活で“楽しかったときベスト3”に入るものとして「科目の選択を考えているとき」を挙げる一方で、“悲しかったこと”は「サークル勧誘で新入生と思われずスルーされたこと」と打ち明ける。学食でもカウンターで非常勤講師と思い込まれ、丁寧に世話を焼いてくれたことに辟易したという。“おいしかった”のは、映画館や美術館への入場、それにPCソフトやハードの購入などで学割が使えたこと。2年で約20万円はトクをしたと告白している。

 本書によると、大学院で得られて最もよかったのは「取り入れたものを、自分の周りの社会でどう循環させていくか」という考え方が備わったこと。知識や技術が十分インプットできたことには当然満足しているが、それ以上に自分と社会との繋がりを作り出そうとする視点が身についたことで、今後の生き方が大きく変わる確信が得られたようだ。社会に身を置く社会人大学生だからこそ、この視点が身につきやすいと述べている。

 本書のように「大学院に通う」ことは多くの会社員にとって難しいかもしれないが、授業数が少ない学科や通信制を選択するなどで、インプットで引き出しを増やし、さらなるキャリアアップや自己実現が目指せるかもしれない。

文=ルートつつみ