家政婦でも雇ったつもり? 結婚さえすれば、幸せになれると思ったのに

恋愛・結婚

更新日:2016/1/13

『結婚してはみたものの』(冬川智子/幻冬舎)
『結婚してはみたものの』(冬川智子/幻冬舎)

 少し前に「婚活」という言葉が流行った。

 関連する書籍やテレビ番組もたくさん登場して、世の中は「婚活ブーム」なように思う。

 だが、あまりにも婚活に気合を入れてしまうと、「結婚」がゴールになってしまう恐れがある。よく言われることでもあるが、結婚は「スタートライン」なのだ。だが、昨今は結婚するまでの過程に注目が行きすぎて、「結婚してから」の現実に目を向けられていない人も、少なからずいるのではないだろうか。

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結婚してはみたものの』(冬川智子/幻冬舎)は、アラサー非モテ女子のサトコが、結婚後の理想と現実に戸惑い、苛立ち、悩み、時にはサトコの妄想にクスッと笑えるコミックエッセイだ。

 サトコは初めて出会った時から「王子様だ」と感じた最愛の男性、ヨーちゃんと結婚し、ヨーちゃんの田舎で新婚生活を始める。

 夢にまでみた結婚生活に、サトコは最初、朝から化粧をして髪をセット。よそ行きのシフォンスカートをはき 、笑顔で愛する旦那様の出勤を見送るといった「良妻」ぶりを発揮。お掃除にお洗濯、お料理も頑張る。

 しかし、無口であまり感情を表に出さないヨーちゃんに、サトコは「本当に私のことが好きなのだろうか」と不安になってきしまう。
「好きじゃなくても、結婚して良かったと思ってもらいたい!」と更に家事に奮闘するが、「良き妻作戦」は長く続かない。

 そのうちに、サトコは違和感を覚え始める。

「いつも私ばっかりガマンしてない?」

 自分はヨーちゃんのために努力しているのに、ヨーちゃんは全然自分のことを考えてくれない! と、どんどん不満が募っていく。

 手料理を作っても、「おいしい」と言ってくれない。

 一生懸命家事をしても、「ありがとう」の一言もない。

 ご飯を食べた後、後片付けは当然のように自分……。

「結婚って、こんなものなの?」

 更にヨーちゃんの浮気が発覚し、サトコの堪忍袋の緒が切れる。

「そっか、アイツは家政婦を雇った気でいるんだ」と、今まで感じていた違和感が浮き彫りになり、サトコはいつか離婚するため、自立出来るように、自分の気持ちをヨーちゃんには隠したまま仕事を探すことに。

 だが、実はヨーちゃんは浮気をしていない。サトコの勘違いだったのだ。

 更に言えばヨーちゃんは結婚したことで、サトコへの愛情と責任を強め、一層仕事に励んでいた。それを知らない(ヨーちゃんは無口なので、そんなことを言葉にしない)サトコは、家事は何一つ手伝ってくれない、 仕事ばかりにかまけて、自分のことを考えてくれない、。自分勝手な旦那だ、と勘違いしていたのだ。

 様子のおかしくなったサトコに、その本心を聞いたヨーちゃんは、家事を手伝ってほしかったのなら、出来る範囲で自分もやるし、「無理に頑張らずにラクにやってこうよ。せっ かく好きで結婚したのに、こんなんですれ違うのイヤだし」と、本心を語ってくれる。

 それを聞いたサトコは、とりあえず、離婚は思いとどまることに……というのが本筋だ。

 結婚生活にとって、一番大切なのは、月並みだが「コミュニケーション」なのだと、改めて実感させられた。

 サトコは、自分は家事があまり好きでなく、「あなたのために頑張ってるんだよ」ということをしっかり伝えるべきだったし、「本当に私のことが好きなの?」という不安も、思い切って聞いてみるべきだった。

 ヨーちゃんも、小さなことでも感謝の言葉を口にして、「お前のために仕事を頑張ってるんだ」という想いを打ち明けておけば、こんなすれ違いは起こらなかっただろう。

 お互いを尊重し、感謝をし合えることが、やはり夫婦円満の秘訣だと思う。
そのために必要なのがコミュニケーションだ。
夫婦関係は「状態」ではなく、「現象」なのではないかと思う。

 何もしなくても維持されているのではなく、常に行動し、形を現そうとしていないと、破綻してしまうものなのかもしれない。
そんなことを考えさせられるコミックエッセイだった。

 もちろん、「私はアンタの母親じゃないし、家政婦でもない!」と不満を感じている既婚者の方が読んだら、感情移入出来ることは間違いないだろう。

 婚活に燃える方にも、既婚の方にも、どちらにもオススメしたい。

文=雨野裾