ナイフで刺されても復活、重症の乳癌も克服 朝ドラヒロイン・広岡浅子の豪傑エピソード

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 現代女性は「肉食女子」と揶揄されるが、男尊女卑が当たり前だった明治時代に活躍した女性たちに比べたら、足元にも及ばない。逆境や偏見に負けず、時勢を捉え、自らの活躍の場を開拓していった女性たちの力強さには圧倒される。特に、今多くの人の注目を集めている、明治期の日本初の女性実業家には驚かされるものがある。その名は、広岡浅子。NHKの連続テレビ小説『あさが来た』の主人公のモデルとなったその人である。

『あさが来た』は、初週平均視聴率が20.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、好調なスタートを切っているが、一体、広岡浅子とはどんな人物なのか。「朝ドラで初めて名前を聞いた」という人も多いのではないか。昨今、『“あさ”が100倍楽しくなる 「九転十起」広岡浅子の生涯』『五代友厚 蒼海を越えた異端児』など、ドラマをさらに楽しむことができる関連本が続々と人気を集めているようだ。中でも、古川智映子氏著『小説土佐堀川 女性実業家・広岡浅子の生涯』(潮出版社)は、27年前に発売された作品だが、『あさが来た』の原案本となったことで一躍脚光を浴びている。今後、ドラマがどう進行していくのか、朝ドラファンはぜひともチェックしたい作品だ。

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 時代は、江戸末期。三井家に生まれた広岡浅子は、大阪の豪商・加島家に嫁ぐことになる。しかし、世は動乱の時代。大名宛に多額の貸付金を有する両替商の加島家も、明治維新後の版籍奉還で貸付金の返還が危うくなる。

 だが、浅子は決してめげることはない。彼女の座右の銘は、「九転十起」。人生は「七転び八起き」どころではなく、勝つためならば何度でも戦い、何度も立ち上がらねばならない。そんな浅子の強い思いが表れた言葉の通り、頼りない夫・信五郎に代わって浅子は嫁ぎ先の危機を立て直そうと肺病をおして借金の繰り延べ交渉に駆けずり回ったり、加島家繁栄や国益のため新しい事業を始めてなくてはと、炭鉱開発に奔走したりする。粗暴な炭鉱夫相手と交渉するために、護身用のピストルを懐に単身炭鉱に乗り込んだり、不平等をもたらしていた飯場制度を廃止して炭坑夫たちの人望をえていったりする姿は圧巻。しかし、それだけにはとどまらないのだ。さらには、加島銀行や大同生命保険会社を設立し、日本女子大学の設立にも尽力。女性の活躍の少ない時代に、女性実業家として、浅子は一躍名を轟かせ、加島家を再興させた。

 転んでもただでは起きず、何かを掴んで起き上がる浅子の負けん気は運をも味方につける。肺病から生還。一方的な恨みを買いナイフで刺されても復活、重症の乳癌も克服。その運の強さは、嫁ぎ先の天王寺屋が倒産し、若くて亡くなった異母姉・春とは対照的だ。

「お金がお金を連れてくるのやない。人がお金を運んでくるのや。つまりお金連れてくる人間様に真心を尽くすしかない」

「私は遺言はしない。普段言っていることが、皆遺言です」

と、遺言を残さなかった浅子の言葉は現代人の心にも胸に響き渡る。浅子は加島家の未来を、そして、この国の未来を考えてばかりいた。おそらく朝ドラでは描かれないだろうが、事業に忙しい浅子は加島家の跡継を生ませるため、無理をいって自身の女中をも加島家を背負って立たねばならない夫・信五郎の妾にさせたという逸話を持つ。村岡花子や市川房枝にも多大な影響を与えたという広岡浅子は男女問わず、現代人が見習うべき懐の深さを携えた人物である。

あらゆる事業を成功させていくさまは、ビジネスマンならワクワクさせられるに違いない。朝ドラファンもそうでない人も、真の強さを持つ実業家・広岡浅子の本を手にしてみてはいかがだろうか。

 

文=アサトーミナミ

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