地下アイドルとテレビに出ているアイドルの違いとは? 姫乃たまインタビュー

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公開日:2015/10/28

『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活(姫乃たま/サイゾー)
『潜行』(姫乃たま)

 ここ数年、名乗れば誰でもアイドルになれる、と言われている。テレビに出るようなアイドルにはなれずとも、「地下アイドル」になら今すぐにでもなれる、と。「子持ちもいますし、巨漢だったり外国人だったり、男の娘(女装した男性)の地下アイドルもいます」、こう語るのは、地下アイドル歴7年の姫乃たまさん。先日、自身の地下アイドル経験について記した『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』(姫乃たま/サイゾー)を刊行した。「地下アイドル」とは一体どういう存在なのか。どうやってなるのか。普段どこで活動しているのか。そして何より、テレビに出ている「アイドル」とは何が違うのだろうか。

    姫乃たまさん

姫乃たまが地下アイドルになった理由

姫乃たま(以下、姫乃) 地下アイドルはここ数年で爆発的に増えましたが、その実態って思っている以上に知られてないんですよね。地下アイドルがマスメディアに取り上げられるときって、過酷な活動環境とか枕営業とか、そういった悲惨な面ばかりにフォーカスが当たって、ライブにどうやって行けばいいのか、どこでライブをやっているのか、などの基本的な部分は意外と知られていないままです。

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――姫乃さんはどうやって地下アイドルの存在を知って、地下アイドルになったのでしょうか?

姫乃 もともと音楽が趣味で、15歳のときにイベントでDJをやらないか、と知り合いづてに声を掛けられたんです。それが地下アイドルの誕生日イベントでした。アイドルに関しては全然詳しくなくて、地下アイドルなんて存在も知らなかったし、今より数も少なかった。そのイベントでDJをやったときに、「若いんだし、今度可愛い格好して歌ってみなよ」と乗せられて、後日、地下アイドルのライブに出てみたんです。そうしたら、そのライブを見ていたイベンターさんから次のライブのオファーが来て、とあれよあれよという間に地下アイドルになっていました。

――じゃあ音楽が好きだったというだけで本当にたまたま……。

姫乃 そうです。人前で歌ってみたら、なんか盛り上がってもらえるぞ、と純粋に驚きました。地下アイドルの文化って本当に独特なんです。(生地が)テロテロの衣装を着ている可愛いのか可愛くないのかよく分からないような女の子が、15cmくらいの高さの段の上に乗って歌っているのを、サラリーマンのおじさんとかが目の前で見て一生懸命応援する……その現場はものすごい熱気で包まれていて、異様な光景ですよ。でも、私はそういったシュールなところも含めて地下アイドル業界が大好きです。

地下アイドルになりたがる人と、続く人

――主にどういう人が地下アイドルになりたがるのでしょうか?

姫乃 私の所感ですけど、学校で一番可愛かった子は、地下アイドルの世界には入ってこないですね。スクールカーストの真ん中あたりを彷徨っていたり、いじめられた経験があったりする子が多いです。個性が強すぎたり、逆に素朴すぎてスクールカーストの上にいけなかった子による、突飛なパフォーマンスだったり、キャラ設定だったり、そういうものの受け皿になっているのが地下アイドルの世界だと思います。あと、20代後半になって「最後のチャンスだ」と入ってくる人も多いですね。テレビに出るようなアイドルとしては通用しなくても地下なら受け入れてくれる、とよく聞きます。でも、ある程度、年齢を重ねた人のほうが、自己プロデュース力が強くて面白いんですよね。

――20代後半って、若い子よりも、似合う衣装やメイクなど自分の魅力を知り尽くしていますからね。

姫乃 そうですね。でも、野心が強すぎたりプライドが高すぎたりすると続かないです。すごく可愛い子が、絶対チヤホヤされるに違いない、と鼻息荒く入ってきて、いざ活動を始めてみると自分よりパッとしない子が人気で、どうして!? となる。ファンも、顔だけで好きになるわけじゃないんですよ。じゃあ何が、と言われると難しいんですが、人間性とか、愛嬌とかも重要で、それに気づかないまま早々に去っていく子はたくさん見てきました。

――そういう、顔だけで人気が出るわけではないところはテレビに出ているアイドルと同じなんですね。

姫乃 だから、私みたいになんとなく入って、何の目標も持たず、志が低いほうが続きます(笑)。プライドも低いので、チヤホヤに対する期待値も低い。知っている中では、女装男子の地下アイドルも長く続いています。彼らもチヤホヤされることに対して期待値が低いせいかもしれません。


チヤホヤされたいアイドルと覚えてもらいたいファンの依存関係

――地下アイドルたちが欲しているものは「チヤホヤ」ですが、それを求めて少ないファンの取り合いが発生する、と著書に書かれていたのが印象的でした。

姫乃 そうなんですよ。まず、活動が軌道に乗るまではファンもいないので、そこで最初の少ないファンの取り合いを経験します。その少ないファンというのは、青田買いしたいファン。新人の子を中心に推したがる人たちが一定数いるんです。その人たちを新人同士で取り合って疲弊します(笑)。それを乗り越えて1年、2年と続けた子でも、思ったより売れなくて、こんなはずじゃなかった、と辞めていく子が多いんです。

――チヤホヤされたくて「(地下)アイドル」を名乗ってみたのに、ファンの数のわりに地下アイドルの数が多すぎる、ってことでしょうか。

姫乃 活動初期に出演していたライブは、観客より演者のほうが人数が多いなんてこともしばしばありました。その上、地下アイドルの活動は、投票制ライブや、テレビ出演をかけた投票とか、とにかく“競わせる系”の仕事が多い。なので、ただでさえ少ないファンに投票を呼び掛けることになりますが、宣伝にもなるので頑張る子が多いです。ファンはファンで、応援したい気持ちが、アイドルに顔や名前を覚えてもらいたい気持ちにつながって、お金をつぎ込んだり、集客に貢献したりするので、結構、アイドルとファンって合わせ鏡なんですよ。アイドルの子だけでなく、ファンにも承認欲求があるんです。

――応援してほしいアイドルの子の承認欲求と、覚えてもらいたいファンの承認欲求。

姫乃 そうです。アイドルとファンって、依存し合っている関係でもあるんですよね。ソロで活動しているのに、ファンが一人しかいないなんてこともあります。そうなるともう、精神的には恋人のような関係に近くなってしまって、ファンはもちろん全部ライブに行くし、ファンを辞めるときなんて話し合いになるんですよ。「最近キミは成長が見られないから、もう応援できない」と言うファンを、地下アイドルの子が引き止めるという。

――もはや「アイドル」と呼べるのか分からないくらい、距離が近いですね。

名乗ればなれる地下アイドルとは、結局何なのか?

姫乃 地下アイドルのファンはほとんどが男性ですが、まれに女性のファンもいます。ファンは9割が男性なので、自然とオタサーの姫状態になることも少なくありません。中にはときどき、「どうやったらアイドルになれますか」って相談してくる子もいます。それで本当に地下アイドルの活動を始めた子もいます。

――相談! それは複雑な気持ちになるような……。

姫乃 そうなんですよ! この相談されると、なんか「うわ、来たな!」「また来たな!」って思います(笑)

――ファンの子に地下アイドルになられたら、ファンが減ってライバルが増えるだけですよね。

姫乃 若い芽は潰しておかないと(笑)!

――そういう子って、もともとアイドル志望だったんでしょうか?

姫乃 最初は純粋にファンだったけど、ステージを見ているうちに自分もやりたくなった、できるような気がしてきた、という感じだと思います、多分。ただ、それで実際に地下アイドルになったとしても、なんかすぐ辞めていっちゃうんですよね。思っていたよりチヤホヤされないし、集客やら競争やらが想像以上にしんどいのかもしれません。

――昨日までファンだったような普通の子が今すぐにでもなれる「地下アイドル」って、一体何なのでしょう?

姫乃 うーん……。昔は、アイドルとして扱われるのが恥ずかしくて、自分で自分のことを「アイドル」とも言えず、とにかく「地下」であることを強調していたんですよね。活動しながら、地下アイドルは「アイドル」ではない、ともずっと思っていました。だけど、実はインディーズである地下も、メジャーであるテレビの中のアイドルも、やっている本質はあまり変わらないんです。だから、ファンとの距離が近くて誰でもなれる=アイドルではない、とも言い切れないような気がしていて。最近は、もしかしたら、地下アイドルって新しいアイドルの形なのかもしれない、新しい時代、新しいタイプのアイドルの総称が「地下アイドル」なんじゃないかと思い始めています。

 もし、「一応アイドルとは名乗ってますが……」と腰が引けているメジャーなアイドルと、「私はアイドル!」とアイドル然としている地下アイドルがいたとして、どちらがより“アイドルっぽい”と思うだろうか。パッと見たときの容姿の可愛さはメジャーなアイドルのほうが勝っていたとしても、長い目で見たら、自分が「アイドル」であることに疑問を持たずにアイドルとして振る舞っている後者のほうが、徐々にアイドルっぽく見えてきてしまいそうである。つまり、人をアイドルたらしめるのは、容姿や技術にかかわらず、どこまで屈託なく自らを「アイドル」と思い込めるか、なのではないだろうか。それは、インディーズかメジャーか、地下なのか誰でもなれるのか、そういった部分は関係ないのかもしれない。

取材・文=朝井麻由美