『ARMS』皆川亮二氏「『スター・ウォーズ』は僕の原点で、人生を変えた映画」

映画

更新日:2015/11/2

『週刊少年サンデー』で連載され、SFファンをも唸らせた『スプリガン』や『ARMS』など、数々の人気マンガを世に送り出してきた皆川亮二さん。諫山創を筆頭にクリエイターたちがその影響を公言する実力派作家も、『スター・ウォーズ』をきっかけにマンガ家を目指したという事実。リアルタイムでその衝撃を体感した世代だからこそ語れる、熱い思いをぶつけて頂いた。


皆川亮二
みながわ・りょうじ●1964年、東京都生まれ。88年、小学館新人コミック大賞少年部門に『HEAVEN』で入選、『週刊少年サンデー』にてデビュー。91年、同誌にて連載がスタートした『スプリガン』が大ヒット。現在『ウルトラジャンプ』にて『ピースメーカー』を連載中。その他の作品に『ARMS』『ADAMAS』など。

――第一作『スター・ウォーズ』公開は1978年でしたが、皆川さんは観に行かれましたか?

皆川:中学2年のときです。やたらと話題になっていたので、親戚のおばちゃんたちと一緒にいきました。映画そのものについては何も知らなかったんで、「ゴジラみたいな特撮映画に毛が生えたようなものだろう」と、たいして期待もしていなかったんですよね。

advertisement

――実際に観てどうでしたか。

皆川:そりゃもうすごかったですよ(笑)! もう冒頭の宇宙の光景からびっくりしてましたから。スター・ウォーズのロゴが現れるのと同時にジョン・ウィリアムズのテーマ曲が流れて、あの瞬間に人生が変わりました(笑)。まず「星がいっぱいある!」って驚いたんですよね。日本の特撮モノばかり観てたせいで、その頃は宇宙は青いものだっていうイメージがあったんですよ。『ウルトラセブン』なんかに出てくる宇宙って、青くて星がないじゃないですか。だからスクリーンいっぱいの黒い宇宙にたくさんの星が光っているだけで衝撃的でした。

――ストーリーが始まる前から衝撃を受けていたんですね。

皆川:例の“宇宙の彼方へ流れていくあらすじ”が終わった後、スター・デストロイヤーがスクリーンの上のほうから現れるじゃないですか。先頭から出てきて全体が観えるまで、あまりに巨大でものすごく時間がかかって、そこでも「うおー、でかい! これはゴジラよりでかい!」ってすごい衝撃で。その衝撃が最後までずっと続いているような感じでしたね。とにかくスケールの大きな世界観に圧倒されっぱなし。ライトセーバーやダース・ヴェイダーのかっこよさはもちろん、宇宙船やドロイド、宇宙人なんかの細かなデザインも含めて、とにかく何もかもが斬新過ぎて完全に心が奪われました。世界がひっくり返ったような感覚。観終わった後に呆然としてたら親戚のおばちゃんたちは「たいして面白くなかったわね」なんて言ってて。お前らいったい何を観てたんだ!っていう(笑)。

――もともと映画は好きだったんでしょうか。

皆川:兄が映画好きだったのでよく一緒に観ていたんですが、『スター・ウォーズ』を観てからは積極的に自分から映画を観るようになりました。もともと『ドカベン』の影響で野球少年だったんですよ。中学では野球部に入っていましたし。でも、『スター・ウォーズ』を観てからは気持ちは完全に映画に行っちゃって。「俺はこの世界に行く! 映画を作るんだ!」という気になっていました。授業中もずっとXウイングやタイ・ファイターなんかの絵を描いてましたね。

――創作の原点が『スター・ウォーズ』だったんですね。

皆川:10代の頃はマンガ家になるつもりはなくて、ずっと『将来は映画の仕事をしたい』と思っていたんですよ。高校の頃から学校もろくに行かないで映画館に入り浸っているような毎日でした。

――『帝国の逆襲』公開されたのはちょうどその頃ですね。

皆川:高校1年のときですね。今はなきテアトル東京で観ました。そしてまた度肝を抜かれて(笑)。エグゼクターの大きさに「今回もでかい!」と興奮して、デッキに立って宇宙を眺めているベイダーを後ろから撮ったショットに「ベイダーのヘルメット、すげーギラギラつやつやしてるカッコいい!」と(笑)。動くスノーウォーカーを観て「なんなんだこれは!」といちいち衝撃を受けていましたよ。『帝国の逆襲』はキャラ立ちもすごく良かったんですよね。ソロとレイアが惹かれ合っていくところの描き方とか。思えばよくできた少年マンガのような盛り上がりがありました。そして、ベイダーがルークの父親だったという告白に「ええええ、嘘でしょ!」と驚いているうちに「あれ、終わっちゃった!? 続きは?」という感じで最後まで大興奮。その頃はアルバイトを始めていたので、自分でお金を出して何回も観に行きましたね。

――『ジェダイの帰還』(当時の邦題は『ジェダイの復讐』)の公開まで待ちきれないという気持ちに?

皆川:当時は『スターログ』というSF映画の専門誌があって、それを購読するようになってスター・ウォーズに関する情報は細かいところまでくまなくチェックしていましたね。とにかく『ジェダイの復讐』にはものすごく期待していて、それが最高潮になったときに先行オールナイト公開で観に行ったんです。

――いかがでしたか?

皆川:ちょうどその頃は自分で映画を作りたいという気持ちが強くなっていて、自分でもいろいろ構想を考えたりしていた時期だったので『ジェダイの帰還』も創り手側の気持ちになって観ていたんですよね。「俺だったらこうしたい!」という感じで。まずボバ・フェットですよ! 『帝国の逆襲』ではハン・ソロを捕まえるという活躍をして、もうこっちもすごい期待してたわけですよ。新作ではどんな暴れ方をするんだろうって。それなのにあっけなくサンドウォームに食べられちゃって(笑)。きっと死んだふりをしてるだけで、後でまた出てくるはずだとずっと思ってましたから(笑)! いま考えると、それだけスター・ウォーズへの期待が大きかったんでしょうね。『帝国の逆襲』を観た後には、「もっとこうしたい!」というイメージが湧いてきて、余計に「自分で映画を作るしかない」と思い始めました。

――実際に映画の制作をしたりもしたのですか?

皆川:自主制作映画のスタッフを何度かやりました。でも、やっぱり映画はお金がかかりすぎるんですよね。特撮をやりたくてもブルーバックの合成さえできない。人を動かす自信もなかった。その頃、高校の同級生でもある神崎将臣先生がすでにマンガでデビューしていて、誘われてアシスタントをするようになったんですが、「マンガなら自分で考えたものをひとりで作ることができる」と思うようになって。当時、大友克洋さんが映画の技法をマンガに持ち込むような描き方をされていて、その影響も大きかったです。「マンガでも映画ができるんだ」と。それでマンガの道に進んだんです。

――マンガ家としてスター・ウォーズから受けた影響はありますか。

皆川:もちろんありますよ。例えばミレニアム・ファルコンが高速でブワーッと飛んでくる映像なんかを観ると、手前のほうに来れば来るほど機体が長くなって見えるじゃないですか。ああいうスピード感をどうやったらマンガで表現できるか、映画は1秒間に24コマ映していますが、絵にするときはそこからどこを抜き出せば一番動きが伝わるのか、そんなことをよく考えたりしていました。スター・ウォーズやスピルバーグ作品といった当時の映画の影響はかなり大きいですね。

――スター・ウォーズのエピソード1~3が公開されたときは、すでにマンガ家として第一線で活躍されている頃でしたが、この新三部作はどう受け止められましたか?

皆川:ジョージ・ルーカスがまた撮るということで期待感はありました。でも、やっぱり最初にエピソード4を観たときの衝撃が大き過ぎたんでしょうね。それに慣れてしまった部分はあるのかなと。ダース・モールとかゲルググみたいでかっこ良かったですけど(笑)。

――リアルタイムで観られたからこその感想ですね。

皆川:『スター・ウォーズ』以降だと『ジュラシックパーク』の衝撃がすごかったじゃないですか。最初の恐竜の大軍が草原を走ってくるシーンはまさに「こんなの観たことない!」という驚きがありました。僕にとってそういう体験を最初にさせてくれたのが『スター・ウォーズ』だったので、やっぱり『スター・ウォーズ』にはこれまで観たことないような世界を見せてほしいという気持ちをどうしても抱いてしまうんです。でもエピソード1が公開された頃にはCGで作られた映像はもう珍しいものではなくなっていて、『ジュラシックパーク』のインパクトを超えるようなものは難しかったのかな、と。でも、今回の新作にはすごく期待しているんですよ!

――それはどんなところでしょう?

皆川:今度の新作はJ・J・エイブラムスが監督をしますよね。彼の映画好きなんですよ。リブートした『スタートレック』シリーズも良かったし、エイブラムスなら『スター・ウォーズ』をかっこよく撮ってくれるんじゃないかと。あとやっぱり予告編を観て心が動きました(笑)。Xウイングが湖の上を飛んでいるシーンを観て、すごくドキドキしたんですよね。「帰ってきた!」って気持ちになって。映画の原体験ですから、もうそういう感覚が植え付けられてるんですよね。さらに「二つの夕日」の曲が流れたときは思わず涙まで出てきて(笑)。だから高揚感はありますね。「やっぱりスター・ウォーズはすごい!」と思わせてくれるような映画になっていることを期待しています。

――今でも皆川さんの中で『スター・ウォーズ』の存在は大きいんですね。

皆川:『スター・ウォーズ』は僕の原点で人生を変えた作品ですからね。エンターテインメントの素晴らしさを教えてくれた特別な映画です。