「今は昔、露出狂ありけり」 古典うんちくとフェティシズムがまさかの融合!

マンガ

更新日:2016/1/13

『あさはかな夢みし』(瀧波ユカリ/講談社)
『あさはかな夢みし』(瀧波ユカリ/講談社)

 女子のバイブル、男子の教科書。ドラマ化にもなった話題作『臨死!!江古田ちゃん』の作者・瀧波ユカリの最新作がいよいよ単行本化した。

 『あさはかな夢みし』(瀧波ユカリ/講談社)は平安時代を舞台にした、古典うんちくとフェティシズムが共演する雑学コメディ漫画だ。

advertisement

 表紙にドアップで写っているのは、主人公の夢子。彼女は「物語大好き」の一風変わった妄想爆裂娘。結婚適齢期でありながら、自分の恋愛よりも物語に出てくる登場人物の色恋が大好きで、男同士の恋愛にも萌える、男×女でも男×男でもどちらも楽しんじゃうオールマイティガール。

 そんな夢子を結婚させるべく「舎人協会から派遣された契約舎人」の小犬丸が、自分を妄想のタネにされながらも、日々奮闘するというのが主軸のお話だ。

 小犬丸はやり手の「婚活系舎人」らしく、(ちなみに舎人とは、貴族に仕えた警備や雑用を行う従者のこと)、早速夢子を結婚させようとするが、夢子は「生身の男性」に興味がない。

 夢子は『源氏物語』を読む際には、脳内イメージの光源氏を裸で登場させたり、『伊勢物語』の中のもの哀しい恋愛物語(もちろん、カップリングは貴族の男×お姫さまという男女)を、貴族の男×かわいいおっさんにしたりと、あらゆる二次創作を行う。

 道中で突然、露出狂の男にあっても動じない。「そんな裸なら、こっちの裸の方が……」と古典文学の話を始めてしまう。

 はたまた『今昔物語』の俗称「芋粥」というお話をボーイズラブに解釈してしまったりと、とにかくやりたい放題。

 そんな夢子を結婚させるのは、至難の業だが……どうする小犬丸!

 1巻の最後で、夢子が今後宮廷に出仕することが決まる。2巻では夢子の妄想in宮廷が見られるのだろうか。ますます目が離せない。

 作者・瀧波ユカリといえば、現代のリアルな「女子あるある」や「派遣社員あるある」ネタが持ち味なのかと思っていた。しかし古典を題材にしていても、作者が日々感じている「現代の諸問題」が見事に描かれていたのが、非常に読みごたえがあったように思う。

 夢子は、現代でいえば「腐女子歴の長い腐女子」だろうし、小犬丸は婚活コンサルティング会社の契約社員といったところだろうか。

 男女の恋愛も読める夢子は完全な腐女子じゃないのでは? という意見がありそうだが、むしろ、長年腐女子だった女性は男×男は基本として、男女カップリングにも萌えてくるものである。ゆえに、今回は夢子を腐女子だと定義しておきたい。完全な私見かもしれないが……。

 その他にも、夢子の母は今はやりの(?)毒母である。本書の中における毒母は、子供の成長を認められず、自分の物のように扱い、死んでもなお亡霊として夢子にとり憑き、「お前に結婚なんて無理!」「私の言うこと聞かないと不幸になるんだからね!」と囁く強烈な存在だ。

 そういったキャラクターも「現代の問題」をはらんでいる。

 ギャグ漫画の、しかも時代物に、そういった読者が興味を抱くような「現代感」を取り入れているのは、さすが『江古田ちゃん』の作者だと感嘆せざるを得ない。

 また、各話の終わりに「千年後劇場」というおまけ三コマ漫画があるのだが、これがまた面白い。現代に生きるOLの千子はクールで脱力系の女性。彼女の視点から見える「現代の切り口」が、『江古田ちゃん』を彷彿とさせる。

 時代物に興味がないという方でも、面白いと思える要素が詰まっていると思う。ぜひ読んで、このぶっとんだ世界観に笑ってほしい。

文=雨野裾