結婚に「愛」はむしろ邪魔である―岩井志麻子さんインタビュー【前編】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 「結婚をフック」に「女の強かさ、計算高さ、愚かさ、男のずるさ、短絡的でだらしない幼さ」をとことんまで書いた新書『「魔性の女」に美女はいない』(岩井志麻子/小学館)を上梓された、女の執念や情念を描き続ける作家・岩井志麻子さん。なんともアグレッシブなタイトルだが、楽しくも哀しく、辛くとも幸せ…という複雑な感情がもつれまくる「結婚」について縦横無尽に語っていただいた!

岩井志麻子
いわい・しまこ 作家。1964年岡山県出身。1999年『ぼっけえ、きょうてえ』で第6回日本ホラー小説大賞を受賞(第13回山本周五郎賞も受賞)し注目を集める。2002年『岡山女』で第124回直木賞候補となるなど、ホラー小説を中心に執筆。近著に『現代百物語』シリーズがある。また私生活もぶっちゃける過激なトークでタレントとしても人気を集める。「韓国ブーム」を先取りし過ぎた岩井さんが“夜の外交官”として書きまくる書籍が近日出版予定。

結婚に「愛」はむしろ邪魔である

 「この本に登場する人たちは背景や設定などは一部脚色しているものもありますが、全員実在しています。ネタは自然に寄ってきますよ。“ヘンタイの誘蛾灯”と呼ばれてますからね(笑)」

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 闇の中にボーッと浮かぶ灯りに引き寄せられる、結婚でつまずいた人たち…岩井さんの言葉通り、本書には旦那の浮気相手と再婚させないために絶対に離婚しない妻、一度の浮気で相手を妊娠させてしまったものの、結婚する気がなかったので付き合っていた別の女と慌てて入籍した男、結婚願望のない女と気楽な浮気をしていたと思っていたら、家庭を崩壊させられそうになった男など様々な男女が登場する。さらには愛憎の果てに命を奪ってしまった人、殺されてしまった人、また世間を騒がせた「首都圏連続不審死事件」の木嶋佳苗被告や「鳥取連続不審死事件」の上田美由紀被告らについての岩井さん独自の考察もあるなど、身近なこと(というか身近にあってほ しくはないが)から凶悪事件まで、幅広くネタが収集されている。

 「今回、結婚をテーマに書きましたけど、しみじみと思ったのは、“愛”という言葉の持つ意味についてですね。愛という言葉って、なんでもごまかせるんです。でも愛は欺瞞、まやかし、幻、妄想なんですよ!」

 愛するがゆえの結婚ではなく、家柄や職業、収入といった面から結婚相手を探す、いわゆる「打算」や「政略結婚」が意外にうまくいっている例を見ていると言う岩井さん、本書でも「私利私欲まったくなしの結婚なんて、そもそもあるのだろうか」と指摘している。

 「打算や政略ではなく『堅実な人生設計』と言えばいいんです。逆に『何にもいらないの、愛さえあれば』っていう方が破綻してますよね。それは、そんなワケないからですよ!(笑) 愛という概念って、日本人に合わんものなんですわ。愛って本格的にキリスト教が入ってきた明治からの考え方で、しかも恋愛結婚が普通になったのなんてここ数十年の話。私が子どもの頃でさえ恋愛結婚って珍しいものだったんですよ。ウチの親も見合いですし、さらに上の爺さん婆さん世代になると、結婚式の日に初めて相手を見たとか普通にいたんですよね」

 本書を執筆したことで、岩井さんは「結局『結婚に愛はいらん!』と結論を出した」と笑う。

 「愛はむしろ邪魔である、贅沢品であるな、と思いましたね。愛はオプションであったらいいものなんですよ。例えば自宅のお風呂にサウナがあったら、そりゃ楽しいだろうなと思うんです。だけどサウナはな くても困るものじゃない。ただシャワーがないと不便だし、湯が出ないってのは困りますよね。『愛があるから』と言う人は、湯が出なくてもいい、水でもいいという人。ヘタしたら水も出ないですよ! でもそれはちょっと勘弁してほしいですよねぇ。もしも私の娘が『彼は学校も行ってないし、働いてもいない、酒飲んで私に暴力振るうんだけど、愛があるの!』なんて言ったら、娘もその相手も両方ともぶん殴りますよ! 私の友人の西原理恵子さんにも娘さんがいるんですが、『お前が夢を見るのはいいが、“男の夢を支える”と言ってはダメだ!』と言い聞かせてるそうです(笑)」

 先日、某週刊誌でコメントを求められた岩井さん、そこで発せられた「愛」という言葉に激怒、思わず説教してしまったんだとか。

 「週刊誌でようやっとるでしょう、『おっさん60歳からもビンビン』みたいな企画(笑)。そこでおっさん編集者が『勃たなくても、愛があればカバーできますよね?』って言ったので『ふざけんな!』と。それは愛とは言わない、ごまかし、つうか詐欺や、命の危険があってもバイアグラ飲むのが愛だ、と説教しましたよ。『愛があるからええじゃろ?』と言うのはタダですからね。そんなの単なる怠け者ですわ!」

誰にでも必ずモテる場所はある

 とはいっても、やはり愛する人と結婚する人が多いのが今の日本。ところが世間には、何度も結婚できる人がいる一方で、一度も結婚できない人もいる。その理由を問うと、岩井さんは「それは自分がモテる場所へ行ってないから」とバッサリ!

 「モテるモテないって人類の普遍的なテーマになってますけど、場所を間違えんかったら、誰にでもモテる場所はあるんですよ。私なんか最初っから熟女好きな男がいるところに行きますよ。若い女好きの男のいるところへ行くのは時間の無駄!(笑) みんなね、網を張る場所、罠を仕掛ける場所、釣り糸を垂らす場所を間違えてるんですよ。北の海で熱帯魚は捕れんし、標高数千メートルのところでは魚も捕れんのです。逆に、すべての場所でモテる人もいないんですよ。ちなみに奥菜恵さんとか、葉月里緒奈さんとかをよく『魔性の女』って言いますけど、あんな美人は普通にモテますよ。そんなん魔性でもないし、モテても何の意外性もない。だけど佳苗がモテる、美由紀がモテる、っていうのが魔性の女たる所以ですよ。彼女たちは、自分がモテる場所を知っていたんです」

 そしてさらに畳み掛ける岩井さん!

 「台湾に私と同い年のおもろい占い師の女性がいるんですよ。その彼女が『アラフォーの女が相談に来ると困る』と言ってました。だいたいが結婚できるかどうかを聞いてきて、『残念だけど結婚運ないです』と言うと『今さらそんなこと言われても困ります!』って泣き出すそうなんです。だけど、よう考えたら自分自身が証明しているんですよ。だって40歳前後で独身ということは、結婚運な いってことじゃないですか。なので彼女が『でもあなたには仕事運がある』と言っても全然聞かないで『結婚するんだったらイケメンでエリートでお金持ちじゃないと!』と言うそうなんですわ。でもちょっと待った、あんたの望むような人は若い女を選びます、って言うと『こんなに待ったんだから、今さら妥協できないです!』って。でもそんな年になっちゃったんだから、妥協しないといけないでしょう(笑)。でも諦めないんですねぇ」

 本書には結婚について「みんなが欲しがる人を欲しいか、自分だけを求めてくれる人が欲しいか」と投げかけてくる部分がある。いわゆる美男美女は「みんなが欲しがる人」であり、ほっといてもモテる。しかし詐欺師の男や魔性の女たちは、この「自分だけを求めてくれる人」をだまし討ちにするのだ。そんな背筋も凍るほど恐ろしく、「そりゃおかしいでしょ!」とツッコみたくなるほど哀しい、あまつさえ笑いをも誘うような愛憎劇が本書には満載なのです。

 岩井志麻子さんインタビュー【後編】では、どうしたらボタンの掛け違いをせず、平穏な結婚生活ができるのか、エキセントリックな人たちが頻出する本書だからこそ導き出された、ありがたーい岩井さんの御言葉が炸裂します。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)