出版業界を覆う枕営業の影…!? 『こんな編集者と寝てはいけない』が描く、クズ編集者の実態

マンガ

公開日:2015/11/7

『こんな編集者と寝てはいけない』(なかまひろ/講談社)
『こんな編集者と寝てはいけない』(なかまひろ/講談社)

 マンガ家にとって重要なのは、もちろん才能だろう。しかし、それと同様に、ときにはそれ以上に大切なのが、「担当編集者」の存在だ。マンガというものは、マンガ家と編集者が二人三脚で創り上げていくものなのである。ゆえに、担当編集者によって、マンガ家の未来は左右されることもあるのだ。

 そんなマンガ家と編集者との複雑な関係をテーマにしたのが、『こんな編集者と寝てはいけない』(なかまひろ/講談社)。衝撃的なタイトルを冠した本作は、新人マンガ家・マチ子が「連載獲得」を目指し、曲者だらけの編集者と奮闘するさまを描いている。

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 “才能”次第でスターダムにのし上がれる舞台。それがマンガ業界。本作の主人公・マチ子は、「連載」というビッグドリームを抱き、戦場ともいえるマンガ業界で戦うマンガ家の卵だ。

 けれど、マチ子の夢はなかなか叶わない。上京して早2年、戦績は「読み切りが1本載った」だけ。同期の作家は華々しくデビューしていくのに、自分だけがくすぶっている。実家の母親からは、「マンガ家なんて夢ばかり見ていないで、見合いでもしろ」と促される始末。やばい、このままでは非常にやばい…。そんなときに目に入ったのが、テレビでグラドルが「枕営業」を告白している様子。違う世界の話だとわかっていても、連載を勝ち取るためならば己の体をも武器にしてやると燃えるのだ。

 ところが、覚悟を決めてもなかなか夢はカタチにならない。マチ子に寄ってくるのは、なんともダメな編集者ばかりなのだ。

 たとえば、編集者・平野の場合。彼はいかにもギョーカイ人な空気をまとう男で、打ち合わせの最中も下ネタを連発する奴だった。マチ子が仕上げたバレーボールマンガのネームを読んでは、「バレーボールなんてヒットしない。そもそも派手さが足りない。スポーツマンガなら、女子マネージャーのパンツくらい脱がさないと」と言ってのける。ところが、マチ子が「なんでも描くから」とすがってみせると、態度が一変。マチ子を高級寿司店に誘い、その後ホテルへとお持ち帰りする。すると、「実はオレ、バレーボール好きだったんだ。君の作品、コンペに回しておくよ」と、マチ子を特別扱いしてくれることに。しかし、その後2カ月、なんの音沙汰もない。それも当然で、平野は編集部から広告営業部へと異動していたのだ。つまり、あの夜のマチ子の覚悟は無駄なものになったというわけだ。そこでマチ子は、タイトル通り、「こんな編集者と寝てはいけないんだ」と悟るのである。

 その後もマチ子のもとには、入れ替わり立ち替わり、さまざまな編集者が現れる。「売れたいなら野球マンガにしろ」と己の野球愛を押し付ける者、元マンガ家志望で言った通りのネームを描かせようとする者、ビッグデータをもとに膨大な要素を無理やり詰め込ませる者…。マチ子は彼らに翻弄され、毎回「こんな編集者と寝てはいけない」と学んでいくのである。

 本作では、編集者がとことんクズに描かれている。けれど、それはあくまでもフィクション。実際の彼らは、より良いモノを世に送り出そうと一生懸命になってくれる存在だ。ただし、なかには「コイツとは寝てはいけない…」と思うような人もいるのかもしれない。ぼくは会ったことがないけれども。

文=前田レゴ