娘の裸踊りに親兄妹も大満足? 今に伝えられる結婚式の風習・奇習

恋愛・結婚

公開日:2015/11/10

『日本の珍しい結婚風習』(国書刊行会:編/国書刊行会)
『日本の珍しい結婚風習』(国書刊行会:編/国書刊行会)

 名古屋の結婚式は、お金に糸目をつけず豪華でド派手だとよく聞く。新婦のお色直しは3回あり、大量のお菓子をばらまく「菓子まき」を行い、引き出物はより重くてかさばるものを選ぶとか。だから、高校時代の友人が名古屋へ嫁ぐことになりその結婚式に呼ばれたときには、どんな式が繰り広げられるのだろうかと期待していた。が、とりわけ豪華というわけでもなく、お色直しも1回のごくシンプルなとてもよい式だった。これまでに出席した結婚式と違っていたのは、名古屋出身の新郎側と福岡出身の新婦側の出席客の方言がそれぞれ飛び交い、互いに面白がっていたことくらいだ。

 これまでさまざまな友人・知人の結婚式に出席し、自分はさておき人の幸せばかり祝ってきたが、その流れや演出に関していえば大きな変わりはない。が、『日本の珍しい結婚風習』(国書刊行会:編/国書刊行会)を開くと、その昔地域ごとに執り行われていた特色ある結婚式を垣間見ることができる。現在のように画一化したのは明治期に入ってからのようだ。とりわけ、明治33年の嘉仁親王(大正天皇)と九条節子(貞明皇后)の結婚式で、「神前結婚式」がブームになったことがひとつのきっかけと考えられる。それ以前は各家庭で行う「人前結婚式」が一般的だった。ブライダル関連の雑誌やネットのページで、チャペルでの「教会結婚式」に対し「神前結婚式」のことを「古式ゆかしい日本伝統の…」などともっともらしく説明するがとんでもない。最近流行りの「人前結婚式」は以前の形式に戻っただけで、これこそ庶民にとって伝統の結婚式なのだ。

advertisement

 さて、『日本の珍しい結婚風習』は北海道から沖縄まで各地方に伝わる結婚式の諸相を記録したものである。明治27年、同29年にそれぞれ発行された『日本婚礼式』上下巻、その後の日本各地の結婚の変化をまとめた昭和2年発行の『各国奇習結婚図解百態』、昭和10年から同24年にかけて発行された雑誌『民間伝承』をもとにしている。ただ、いつ誰が取材したものなのかがわからず、また断片的なエピソードにとどまっているのが残念。とはいえ、大切な記録を忘れ去られるままにすることなく、後世に残そうと情報を整理して現代語訳し装いも新たに出版された点は高く評価されるべきことだと思う。

 例えば、冒頭で名古屋の結婚式を挙げたが、同じく愛知県の岡崎地方では、近所の子どもたちが輿入れをする花嫁の車に付きまとい、花嫁は彼らに紙に包んだ駄菓子を渡す風習があったそうだ。この話は名古屋の「菓子まき」を思い出す。愛知県の中島郡方面でも花嫁の一行が老若男女問わず菓子袋を与えるそうだが、中身が少なかったり粗末だったりすると、花嫁の悪口を言ったり、ひどいときには石を投げることもあったらしい。他の地域でも石地蔵を家に運び込んだり、花嫁の通り道に縄を張ったりと婚家に対する乱暴狼藉が散見され、不謹慎にもほどがある風習に驚かされる。

 また、ちょっと変わった結婚式の記録も。福島県東部及び宮城県南部の地方では、酒宴の際に女たちが裸踊りをするという。何でも「裸踊りをするほどの気丈夫な女は、男勝りである」として、こうした娘を持った親兄妹は鼻を高くしたとか。その様子を描く絵を見る限り(これも誰がいつ描いたのか不明だが、おそらく『各国奇習結婚図解百態』あたりの挿絵ではないかと思われる)、一枚の布を体に巻き付けた状態なのでさすがに真っ裸ではないと推測される。

 それもこれも、本書の元となった書籍や雑誌の時点で、「こんな風習があったそうだ」「今はこうした慣習もなくなっている」と記述されているようなので、実際には明治初期や江戸時代まで遡るのだろう。

 現在、ジミ婚どころか結婚式離れが進んでいるという。挙式・披露宴にかかる費用の全国平均は約333.7万円(「ゼクシィ結婚トレンド調査2014」による)。たった1日で終わる行事にこれだけの大金を払うことをバカバカしく思う人が増えているようだ。離婚率が高くなっていることも背景にありそうだが…。そのうち結婚式自体を古き風習とする日がやってくるかも?

文=林らいみ