「ボツ企画」から映画史に残る超大作になった『スター・ウォーズ』全貌に迫るSWファン必読の1冊が登場!

映画

更新日:2015/11/20

 『スター・ウォーズ』の最強ヒーローと言ったら、こりゃあもう、なんたってダース・ベイダーだ。なにしろ飛びきり格好いい。黒でまとめた装束が伊達で、たなびくマントが優雅なうえ、「シュコー、シュコー」っつう呼吸音もダークサイドに閉じ込められた感触風味をあおって愛し哀しい。くわえて、どこか陰を背負った立ちい振る舞いがそこはかとなくにじみ出ていて、私たちの心をくすぐるときている。

 思い返してほしい、エピソード1から3までがダースベイダーの誕生を描き、4から6までが彼の死を描いている。つまり、いままでの『スター・ウォーズ』は、彼の全生涯の物語だったのだ。主人公でなくてどうする。

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 と、あらぬ妄想を抱かせるほど、『スター・ウォーズ』は素晴らしいのである。

 『スター・ウォーズ論』(河原一久/NHK出版)は、そんなこの映画の、面白さや誕生秘話を、あれるほどにぶちまけたスター・ウォーズ大全なのである。著者はTVディレクターにしてライターであり、なんと羨ましいではないか、『スター・ウォーズ』の字幕作成にかかわった人物であり、フリークとして、その全貌を知り尽くしていると言ってもいいだろう。フォースを持っている疑いもある。

 まず、「スター・ウォーズの面白さはこれこれだ」と要素を数え上げるのでなく、「スター・ウォーズがなぜ面白いか」という謎を考えてみたいと壮大な疑問をぶち上げてみせる。

 そんな疑問にどこのどいつが立ち向かえるのか…。膨大な情報に紛れて最後のページまで読者は引っ張られるのだ。

 とにかくこっちは、12月18日の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』公開の日に身も心も焼き尽くされて、喉から焼け焦げた胃が出るほど心がはやっている今日この頃である。ここはひとつ、情報の海にのまれて、しばしクールダウンせねばなるまい。

 なんて言っといて煽るわけではないけれど、著者は、『スター・ウォーズ』への日本映画と文化の影響は実はそれほどでもないと小癪な説を言い放ち、そのあとで、かつてルーカスが口にした、エピソード10から始まる4つ目のシリーズ、その実現についても触れる。12作はさらに15作にも、18作にも膨らむ可能性があるとまで語る。全部観たいけど、それじゃ、私たちがみまかったあとに新作がオープンされるわけだから、おちおち死んでいられないのである。

 著者が与えてくれる情報はまだまだある。

 たとえば、驚くべきことに、「スターウォーズ」が最初はボツ企画だったこと。誰もが、こんなに面白い映画のどこがボツだよ、と突っ込みたくなるだろう。最終的に20世紀foxで陽の目を見ることになったが、それまでにユナイト、ユニバーサルから却下をくらっいるのだ。理由は、これだけの特殊視覚効果は実現することができない、もし実現しても費用がかかりすぎる、というものだった。ルーカスは賢かった。当時ほとんど死に体となっていた映画会社の特殊視覚部門に頼らず、みずからの手でインダストリアル・ライト&マジック(ILM)を立ち上げ、技術の向上と制作費の削減に努力したという。

 あるいは、『スター・ウォーズ』といえば黒澤明の『隠し砦の三悪人』がしばしば引き合いに出されるわけだが、ルーカスが第一作に取り入れた、多くの映画を数え上げる。レニ・リーフェンシュタール『意志の勝利』、マイケル・アンダーソン『暁の出撃』ウォルター・E・グローマン『633爆撃隊』、フレッド・ジンネマン『真昼の決闘』、黒澤明『椿三十郎』などなど、たまらなく全部見たくなるのだが、そのひとつひとつについて、どこがどう取り入れられているのかを語る著者鋭くかつ軽やかだ。

 また、スピンオフ作についても書くのを忘れない。現にテレビシリーズとして、アニメでエピソードが展開されているらしく、それらの本編への影響もあるに違いないと著者は言うのだ。

 つまりこの本ときたら、我らが同胞たる『スター・ウォーズ』ファンとして、並びなき情熱を抱える著者が放つ、「はるか彼方の銀河系」で展開する物語の、ペダントリーの宝庫なのである。

 願わくば、黄泉の国よりのダースベイダーの復活を私は強く望む。

文=岡野宏文