元東大医師が赤裸々に語るがん治療の真実! エセ医学にだまされないために

健康

更新日:2016/1/13


『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(大場 大/PHP新書)

 もしも、あなたが「がん」だと診断されたら、どう思うだろうか。多くの人は「がん」というショッキングな病名を聞いただけで、その事実にうろたえ、思考が止まってしまうことだろう。

 今や私たち日本人にとって、がんという病気は大きな脅威だ。日本人の2人に1人はがんを患い、そのうち3人に1人はがんによって命を落とす。あまりにも身近な病気でありながら、私たちのがんに対する“正しい知識”は乏しい。その証拠に巷には、科学的根拠に基づかないがんの治療法が当たり前のように、メディアに取り沙汰されている。日本人はがんを恐れていながら、がんに対して正しい知識を持たない、と『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(大場 大/PHP新書)の著者、大場 大(おおばまさる)は本書の中で語っている。

 「これでがんが治ります」とうたう本や研究論文の中には、その効果に疑問符がつくものが多い。高濃度のビタミンCを投与してがん治療を行う「高濃度ビタミンC療法」はノーベル賞学者が研究した治療法なのにもかかわらず、科学的根拠は乏しく、その効果は疑問視されている。「ノーベル賞受賞」という権威があるから多くの人はその効果を疑わないものも、大場 大からすれば「高濃度ビタミンC療法」の科学的根拠は疑わしいという。

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 また「この食材を食べればがんが治る」という食事療法もオカルトの類に等しいということが、本書で説明されている。これらの治療法は個人差があるとうたうものが多いが、科学として再現性がなく、客観的事実に基づくと、その効果に期待ができない。だが巷では、このような“エセ医学”が蔓延している。そして、多くの日本人――著名人や芸能人たちほど、そのエセ医学を信じこみ、意味のない治療を続け健康寿命をすり減らし、がんとの戦いに敗れ死んでいく。

 残念ながら、これが「がん先進国」と自らを称える日本のがん治療の真実の姿だ。確かに日本の医療技術は先進国の中でもトップクラスなのは事実だろう。日本の医学界には「ゴッドハンド」と世界でも有名な外科医がいるが、手術の技術とがんの治療の関係はあまりない。なぜなら、がんは切れば終わりという性質のものではなく、再発させないために手術後のケアにも細心の注意を払わなければならない、長期的な病気だからだ。

 だからと言って「切らずに治す」というのも患者の状態によっては正しいとは限らず、「何もせずにがんを放置する」というのも患者のことを考えると決して正しい治療とは言えない。大切なのはがん患者の健康寿命を考え、精神的、肉体的にケアを行い「抗がん剤」や「モルヒネ」といった選択肢を外すことなく、本当に患者のことを考えて一人ひとりにあった治療を行うことが大切だと本書では語られている。

 「がん患者のために治療をする」ということは患者からすれば当たり前のことのように思えるが、治療を行う医師の側からすればそうではないらしい。科学的根拠に乏しいエセ医学で治療し、法外な金額を請求する利益追求型の医師や、すでに時代遅れとなったがん治療法を患者にほどこす、時代遅れの医師。かつて“名医”ともてはやされていた医師の中には、その腕が鈍ったのにもかかわらず、強引にがん患者に手術を行い、患者を死に至らしめてしまう、名医とはほど遠い死神のような医師も。

 本来ならば治るはずのがんにエセ医学をほどこされ、病状を悪化させられ、莫大な医療費を請求されるのもゴメンだが、医師の傲慢によって殺されては堪ったものではない。

 そういった恐ろしい医師の魔の手から逃れるための方法は1つしかない。それはがんに対する正しい知識を持つということだ。「がん」と聞いただけで思考停止におちいらず、エセ医学に騙されないだけの科学的知識を持ち、「がんが治る」という甘言に惑わされないということが重要だ。

 まるで「詐欺」に引っかからないための、苦言にも聞こえるアドバイスだが、それだけ「がんが治る」という詐欺に引っかかってしまう人が少なくないのだ。そして、詐欺のような治療をほどこす医師もまた、決して少なくはない。

 あなたやあなたのまわりの人間ががんと診断された時に、エセ医学や恐ろしい医師に騙されないためにも、本書を読んでがんに対する正しい知識を知るべきだろう。

文=山本浩輔