場所・素材・形それぞれに意味がある! 生きものの巣からその生き様に触れる図鑑

科学

公開日:2015/11/23


『生きものたちのつくる巣109』(鈴木まもる/エクスナレッジ)

 人が住む家というものは民族によって形や素材が異なる。家を建てる場所の気候や風土が、壁の素材や屋根の形などに影響を与えるからだ。そのうえ生活習慣や文化の違いなどによっても家の造りが微妙に異なる。自分たちの生活スタイルに合わせて、使いやすい形にするためだ。

 しかし、このような違いが見られるのは何も人間の世界だけの話ではない。自分たちの生活に合わせて住みやすい住みかをつくるのはどんな生きものでも同じなのだ。そこで、巣の形や素材からそこに住む生きものの暮らしを垣間見ることができる『生きものたちのつくる巣109』(鈴木まもる/エクスナレッジ)を紹介する。

巣にスポットを当てた生きもの図鑑

 この本をひとことでわかりやすく説明するなら「巣が主役の生きもの図鑑」とでも言ったらよいだろうか。見開きごとに1種類ずつ形や素材に特徴のある生きものの巣が紹介されており、109種類もの巣を見比べることができる。といっても、ただ単純に巣の形のおもしろさだけを描いているわけではない。生きものの巣がメインの本だからといって、巣の見た目だけを楽しむ本ではないのだ。巣を通してそれぞれの巣をつくった生きものたちの生き様に焦点が当てられている。話の入り口は巣の形や素材のおもしろさだが、それをつくり、その中で暮らす生きものたちの生活にもきちんと触れられる内容になっているところに注目してほしい。

advertisement

写真ではなくイラストを採用している点がこの本の魅力!

 おもしろい形の巣を紹介するのであれば、実物の巣を写真に撮って掲載するという方法もあり、その方が手っ取り早いかもしれない。しかし、この本には全編通して美しいイラストのみが使われており、それがこの本の魅力となっている。写真は実際の姿をありのままに見せるのには役に立つが、草や木、土などを素材とする巣を見せるうえではどの巣も同じように見えてしまう可能性がある。ひとつひとつの巣を魅力的に見せるという点で、イラストの方が勝っているかもしれない。

 また、巣自体もそこに暮らす生きものも、イラストを用いたことにより温かく感じられ、形や素材の質感もはっきりする。しかも、イラストなら巣とその巣をつくった生きものを同時に描くことができるため、巣と生きものの大きさの対比も一目瞭然になる。生きものの住む巣を見せるという点においては、イラストを用いた点がプラスに働いているようだ。

つくり手のプロフィールに注目!

 見開きページの一部に、それぞれの巣をつくった「つくり手」の生きものについて紹介するコーナーが設けられている。そこには生きものの名前や大きさ、生息地などはもちろん、どのような特徴を持った生きものなのかということも書かれている。例えば、クモの糸で縫い合わされた葉っぱの巣のつくり手が、その名もずばり「オナガサイホウチョウ」という鳥で、英語でも“Tailorbird(仕立屋)”と名付けられていることがわかるといった具合だ。巣のつくり手がどのような生きもので、どのような特徴の持ち主かということを知ることは、巣がどのようにその生きものの生活に活かされているかを知るために必要不可欠なこと。巣のおもしろさを味わうならぜひ参考にしてもらいたいコーナーだ。

巣ができるまでの工程も紹介されている!

 形のおもしろい巣を単純に集めただけでないところがこの本の魅力だ。メインのイラストとして巣の全体像が描かれているだけでなく、巣の断面図や、巣が生きものたちによってどのように使われるのかがよくわかるイラストも一緒に掲載されている。中でも巣ができあがるまでの工程がわかりやすく描かれている「巣のつくり方」のコーナーは必見! 編み物や工作の説明のようにわかりやすく巣のつくり方が描かれているため、自分でもつくってみたくなるはずだ。

「なぜこんな形の巣をつくるのか」がわかる!

 巣がおもしろい形になる理由の1つは、天敵に襲われないための工夫だ。例えば、敵を欺くために偽物の入り口をつくったり、敵の手が届きにくいところに更に手の届かない形の巣をつくったりするのがその例だ。中にはサボテンのトゲを利用して巣をつくったり、ハチをボディガードにつけたりする鳥もいる。もちろん鳥だけではない。虫も爬虫類も魚類も、みんな敵から子どもを守り育てるために特徴的な巣をつくっているのだ。

 生きものにとって敵は目に見えるものだけではない。気候のような目に見えないものから身を守るのにも巣は活かされる。そのため、どこに住んでいるかという要因が巣の素材の違いとなって表れることもある。例えば、ツリスガラは羊の毛を断熱材代わりに使い、アナホリフクロウはプレーリードッグがつくった巣の空き家をリノベーションして住みやすくした後に一家で住む。生きものたちの工夫は人間から見てもすごいと言えるものが多いのだ。

 人間であれば、家を建てる専門家がいて、希望を伝えればそれに合うようにデザインして建ててもらうことができるが、生きものたちはそれぞれ自分たちで巣をつくっている。それなのに、同じ種類の生きものは同じ素材や同じ形状の巣をつくる。この本を読むと、複雑な形状の巣をだれに教わるでもなくつくることができる点からして不思議だと感じるのではないだろうか? 生きものそれぞれの遺伝子に巣の設計図も組み込まれているのではないかと思わされる1冊だ。

文=大石みずき