荻原規子、上橋菜穂子ら絶賛! 『一瞬の風になれ』著者の新作は、神社が舞台の青春ファンタジー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 特別になりたい、と願ったことはありませんか?

 自分が選ばれるという喜び。自分にしかできない役目。そして自分だけの特別な仲間。いつでもそんなかけがえのない出会いが欲しかったし、本当はいまでも欲しい。そんな人に贈りたいのが『シロガラス』(偕成社)。鶴田謙二さんのイラストが目印の、『一瞬の風になれ』で本屋大賞を受賞した佐藤多佳子さんによる、初のファンタジー長編です。

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 白烏神社に伝わる三つの“不思議”。それは、向かい合わせの台座で片方だけ行方不明のカラスの石像。拝殿にある、へたくそな天井画。星のかけらだといわれる星明石(ほしあかりのいし)。神社の伝統行事「子ども神楽」を舞うことになった六人の子どもたちが、落雷を受けたことから超能力を授かってしまい、この“不思議”をひもといていく――という、王道ファンタジー小説。物語は、白いカラスに宿った“雪気”と名乗る異種生命体との交流や、白烏神社の創建者・森崎古丹にまつわる驚くべき秘密など、SF的要素もふんだん。さらにはお神楽を通じて神社の奥深さも感じられる、なんとも贅沢な仕上がりです。

 ですが、この小説の読みどころはそんな枠組みではなく、六人の少年少女たちの瑞々しい感情。

 宮司の孫・千里は古武術の天才少女。千里の相棒でいとこの星司。ふたりの幼なじみで星司に想いを寄せる美音。千里とは犬猿の仲の乱暴者・礼生。クラスの人気者だけど内心では毒舌満載の有沙。とっても頭がいいのに、絶望的に運動音痴の数斗。性格もバラバラの六人が、呼吸をあわせて舞わなくてはならないのが「神楽」。さらにそこへ降ってわいた超能力が、6人の関係をかきまわしていきます。彼らの、学校で見せる顔とプライベートの本音が溶け合っていったとき――なにが起こるのか、その期待と興奮がこらえきれずに思わずページをめくってしまうのです。めくり続けて毎巻ラストで「マジかよここで終わりかよ!」と次巻発売日を検索してしまうのはわたしだけではないでしょう。4巻ラストも、そうとうに“ヒドい”です。お願いですからはやく、一日もはやく新刊を出してくださいね……と星とカラスに願う日々。

 特別な力を授かったとき、自分の役目に直面したとき、いったいどうするか。使いこなして武器にしようと躍起になるか、おそろしさに手放そうと怯えるか。どちらにせよ自分なりのやり方で乗り越えていこうとする彼らの踏み進める一歩は、大人であるわたしたちに覚えのあるものであると同時に、大人になったいまでも手に入れたい尊い勇気でもあります。

 しばしば児童文学は“大人も読める”と形容されがちですが、「面白い」に大人も子どももないというのが個人的な意見。物語の表面を追うだけで十分わくわく楽しくて、だけど行間にこめられた想いのかけらに気づいたときに衝撃が走る。その面白さに年齢性別は関係ありません。主人公が大人だろうと子どもだろうと、そこに描かれる人たちが物語の中で“生きて”いれば、それだけで胸を打つはずで、その力がこの物語には詰まっているのです。

文=立花もも