言葉は心につながる 育むべき子どもの“絶対語感”とは

出産・子育て

公開日:2015/11/25


『日本語の絶対語感』(外山滋比古/大和書房)

 絶対音感ならぬ『日本語の絶対語感』(大和書房)という、気になるタイトルの文庫本があった。著者は、今年で92歳となる言語学者の外山滋比古さん。過去には、東大生や京大生にもっとも読まれた本と称されるベストセラー『思考の整理学』(筑摩書房)を手がけた方だ。

 そもそも絶対語感とは何か。三つ子の魂百までといわれるように、乳児期から幼児期にかけて習得した“言葉”は生涯の“心”につながると訴える外山さんは、自著の中でプロセスを追って解説する。

 動物も人間も、幼い頃からの“刷り込み”が教育に影響する。しかし、親の仕草をマネしながら数日~数ヶ月単位で一人前になる動物とちがい、長い時間をかけて成熟する人間が、唯一生まれてすぐに習得を始められるのが言葉だという。

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 はじめにふれるのは、外山さんのいう“母乳語”だ。生まれてまもない赤ちゃんは、運動能力がじゅうぶんではない。しかし、聴覚だけは母親の胎内にいる時から備わっているといわれる。そのため、子どもにとって初めての“先生”となる母親の言葉は大切で、アメリカでは“マザーリーズ”と呼ばれる下記のような語りかけのポイントが伝えられている。

・普通より、少し高い調子の声で話す
・抑揚を大きくする
・くりかえし言う
・おだやかに、できれば、ほほえみを浮かべて話す

 三つ子の魂でいわれる“三年”はまさに、母乳語にふれるための期間だと外山さんはいう。例えば、親が「ワンワン」とくりかえし伝えれば、イヌを見かけた子どもは「ワンワン」だと認識し始める。母乳語の役割は、このように具体的な物事と言葉の結びつきを子どもに根付かせるところにあり、次第に、子どもはまわりの物事への興味や関心を自然に抱き始めるという。

 そして、外山さんは次のステップとして“離乳語”の大切さを伝える。目の前にある具体的な物事を表す母乳語とちがい、目には見えなくとも、物事を理解して、表現するための子どもにとっての自発的な言葉である。

 自著の中で「離乳語を習得できない子どもが少なくない」と憂う外山さんは、離乳語の一例として“ウソをつける”ことを肯定的に取り上げている。その重要性を“想像力”に結びつける外山さんは、子どもが母乳語から離乳語へ移り変わる時期に、正直が大切だといっさいウソを認めないようにしつけてしまうと、ともすれば「想像力が萎縮してしまう」と話す。

 このようなプロセスにより育まれた、一人ひとりの言葉の基礎を外山さんは“絶対語感”と名付けている。絶対語感に正解はない。しかし、いつからか自然と無意識に発せられる言葉は、それぞれの心につながる。いうなれば“心を育む”ということであり、よい言葉が習慣化して刷り込まれるか否かで、それぞれの人間性も決まるという。

 特に、乳児期から幼児期にかけては、書き言葉ではなく“耳から入る言葉”を重視することが、やがては子どもの知的能力などに結びつくと主張する。絶対語感と同じく、子どもの教育にも正解はない。ただ、むやみに親の理想を当てはめるのではなく、成長を自然と見守りながら、言葉をしっかりと伝えていくのも一つの方法のように思える。

文=カネコシュウヘイ