ケチャップは何語? 天ぷらの起源はどこ? 七面鳥はなぜターキーなの? 食にまつわる人類史

社会

公開日:2015/11/26


『ペルシア王は「天ぷら」がお好き? 味と語源でたどる食の人類史』(ダン・ジュラフスキー/早川書房)

 トマトが原料の真っ赤な調味料のケチャップ。ピザやホットドッグ、チキンナゲットのソースとして、日本でも定番の味ですが、「ケチャップ」は何語かご存じでしょうか? 英語? イタリア語? それともフランス語でしょうか?

 『ペルシア王は「天ぷら」がお好き? 味と語源でたどる食の人類史』(ダン・ジュラフスキー/早川書房)によれば、「ケチャップ」は中国語だそうです。福建地方の方言で「保存した魚のソース」という意味で、そもそもは魚醤のことでした。ケチャップの製品ラベルをよくみると正しくは「トマト・ケチャップ」と表記されています。それでは「トマト」は何語でしょうか? 答えはアステカ人が使っていたナワトル語です。トマト・ケチャップは貿易によってヨーロッパに持ち込まれた東西の食文化が出会って生まれた歴史的な調味料だったのです!

 本書は、食に関する言葉から壮大な人類史を読み解く料理の歴史書です。いつも私たちが食べているものには知られざる歴史秘話が隠されていたのです。

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天ぷらの起源はペルシアにあり

 天ぷらの語源はポルトガル語のtempero(調味料)やtemperar(調理する)とされています。しかし、料理としての起源は6世紀のペルシアに遡ります。ササン朝ペルシア帝国の王ホスロー1世の好物は、シクバージ(sikbaj)と呼ばれる牛肉の甘酢煮込みでした。酢酸には殺菌効果があり、メソポタミア南部では酢は食材の保存に欠かせないものでした。10世紀以降になると、船乗りたちによって牛肉のかわりに魚に小麦粉をまぶして揚げたシクバージが登場します。

 この船乗りたちによって地中海の西側にレシピが広がり、シチリア語でスキッベチ(schibbeci)、ナポリ語でスカペーチェ(scapece)、カタルーニャ語でエスカベッチ(escabetx)、オクシタン語でスカベチ(scabeg)という名前で同じ料理が残っています。中世のキリスト教には肉、乳製品、卵を口にしない断食日の習慣があったので、魚料理はキリスト教徒に歓迎されたのです。そうして西端のポルトガルまで伝わると、イエズス会の宣教師によってさらに海を渡って日本にたどり着き、私たちのよく知る天ぷらになったのだそうです。

中世ではトーストをワインで浸していた

 英語で乾杯を意味するトースト(toast)の語源は「火で炙ったパン」。私たちも朝食で食べているトーストのことです。パンとアルコールには意外な関係がありました。ヨーロッパでは17世紀までワインやエールに風味をつけるためにハーブや砂糖、トーストの欠片を入れて飲んでいたのです。それが転じてパーティの席に花をそえる貴婦人を「トーストのようだ」と誉めたたえ、レディの健康と幸福を願う祝杯に「トースト(toast)!」というかけ声が誕生したとされています。

 また温めたワインやブロスにトーストを浸した料理はソップ(sop)と呼ばれ、これがスープ(soup)の語源で、やがてトーストと一緒に食べる汁物全般を示すようになりました。ポタージュとは、そもそもポタージュ(pottages)という鍋で作った煮込みをトーストやパンにかけた料理のこと。スープのテレビコマーシャルでやっている「つけぱん ひたぱん」という食べ方は実は中世の頃からあったのです。メーカーは知っていたのでしょうか?

七面鳥をターキーと呼ぶ秘密

 欧米の祝日である感謝祭のごちそうといえば七面鳥の丸焼き。七面鳥の英語名はターキー(turkey)ですが、どうしてトルコ(Turkey)という国名なのでしょうか。それはある国の秘密主義が理由でした。七面鳥は1世紀頃にすでにメキシコの先住民に家畜化されていました。15世紀頃にはアステカ人に飼育され、雌鶏はトトリン(totolin)、雄鶏はウエショロトル(huexolotl)と呼ばれ、唐辛子のソースをかけたローストチキンが一般的でした。そして新大陸に到着したコロンブスが七面鳥を口にして以降、ヨーロッパに渡りました。

 一方、フランスとイギリスでは、七面鳥によく似た鳥ホロホロチョウをアフリカから輸入していました。この鳥を最初にヨーロッパ人に売ったオスマン帝国のスルタンにちなんで「トルコの鶏(Turkey cock)」と呼ばれていました。当時、ポルトガル政府は海図や航海記録を非公開にしていたため、輸入品の産地が曖昧でした。それによりポルトガル人の持ち込んだメキシコの七面鳥が、アフリカのホロホロチョウと混同されて取引所で売買されてしまったのです。その結果、七面鳥まで「トルコの鶏」として扱われ、ターキーという呼び名が根付いてしまったのです。なりすまし被害にあったホロホロチョウはどんな気持ちだったのでしょうか。

 上記以外でも本書は、肉料理、魚料理、サラダ、酒、デザート、ジャンクフードにいたるまで様々な食の言語を取り上げ、それらが生まれた起源や文化を解説しています。さらには当時の時代で食べられていた料理のレシピも数多く記載され、使われている豊富な食材と料理人の技術に驚かされます。料理好きやグルメの方へ、さらなる食への知識と理解を深めるきっかけとしてオススメです。

文=愛咲優詩