映画版の謎もこの1冊で解決!? 宮崎駿が自ら描いた『風立ちぬ』の原作マンガの中身とは

マンガ

公開日:2015/11/28


『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』(宮崎駿/大日本絵画)

 2013年に公開された宮崎駿監督の長編アニメ映画『風立ちぬ』。大絶賛する人がいた一方で、「話がよく分からない」という声もあり、賛否が分かれたことでも話題を呼んだ。10月に発売された『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』(宮崎駿/大日本絵画)は、同作品が大好きな人、よく分からなかった人の両方に読んでほしい作品だ。

 ご存じの方も多いと思うが、映画の『風立ちぬ』は、宮崎駿が自ら描いた同名のマンガが原作。その全9話が収録されているのが本書なのだ。また本書には、宮崎駿監督が自らの言葉で作品について語った文章や、マンガ以外のイラストも収録。映画版『風立ちぬ』の副読本としても楽しめる内容になっている。

 ちなみにマンガのストーリーは、映画版と大筋は同じだが、全く違う点も部分もある。

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 まず、最も大きな違いは、主人公・堀越二郎を含めた大半の人物の顔が「豚」であるということ! 子供時代の二郎にいたっては完全なる子豚。成長して人間らしくはなるが、鼻は豚のままである。

 また、そんな豚だらけのマンガの中でも、ヒロインの菜穂子をはじめとする女性たちは例外で、「これでもか!」というほど美しく可憐に描かれている。この露骨な男女差には、「も~宮崎サン、可愛い女性がお好きなんだから~」と読んでいてニヤニヤしてしまうだろう。

 また、映画版『風立ちぬ』が、堀越二郎をモデルにその半生を描きながら、堀辰雄の小説『風立ちぬ』の要素を随所に盛り込んでいる……というのは有名な話。そして、この原作マンガには、映画には姿を現さない堀辰雄も登場している(ちなみに彼の顔は例外的に「犬」だ)。

 堀越二郎と堀辰雄が出会うのは東京本郷の洋食屋・ペリカン。お店は実在したものだが、2人の出会いは完全な妄想だ。そして堀越二郎が「君の本をよんだよ。あの中の詩がスキだ。自分達のヒコーキが、初めて飛ぶ時に、本当にああ感じるんだ」と堀辰雄に語りかけ、以下の詩を口ずさむ。

風は僕の皮膚にしみこむ
この皮膚の下には
骨のヴァイオリンがあるというのに
風が不意にそれを
鳴らしはせぬか

 そして堀越二郎は、さらに堀辰雄の詩の一部を引きながら、以下のように続ける。

 ぼくら設計者はいつも翼の中の骨組のきしみに耳を傾けてるんだ。君が蝕歯(むしば)の中のもの音に、ぢっと耳を傾けているように、エンジンのつぶやきに、きき耳をたてている…

 それに対し、堀辰雄は「ぜひ 君の美しいヒコーキを つくってくれたまえ」と返答をする。映画では一人の「堀越二郎」の中に閉じ込められた2人の男が、意気投合するこの場面は、まさに映画『風立ちぬ』が誕生した瞬間でもあるわけだ。

 この場面以外にも、本書には映画『風立ちぬ』では謎だった場面のヒントが多く描かれている。映画にも登場するカプローニの「設計はセンスだ。センスは時代をさきがける」というような名言も出てくるし、マンガ以外の部分では、「そこまで言っていいの、宮崎サン!?」と心配になるような過激な発言も登場している。この本を読んでから映画『風立ちぬ』を見返せば、その楽しみは倍増するはずだ!

文=古澤誠一郎