Pixivで大人気! 大人も読みたい、1人の女の子と1人のおばけの物語

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17


『おばけのケーキ屋さん』(SAKAE/マイクロマガジン社)

 「最近、自分のために絵本を読みましたか?」という問いに、「はい」と答える大人はどれだけいるのだろう。「絵本を読む暇があったら、ビジネス書や新書を読む方が有益だ」と考える人も少なくない。もちろんそういった本も大切だが、本当は大人にこそ絵本という存在が必要なのではないか。日々の忙しさに追われていると、ついつい自分中心の思考回路を構築してしまう。絵本は、そんな凝り固まった心に、休息や気付き、刺激や癒しをくれる存在なのだ。

 そこで、絵本を一冊紹介したいと思う。『おばけのケーキ屋さん』(SAKAE/マイクロマガジン社)だ。この本は、“大人も子供もいっしょに泣ける感動絵本”としてPixivで大人気となり、2013年に書籍化された。Pixivでの閲覧数は今や45万PVを突破し、先日ミニ版絵本も出版された。

 この物語の主人公は、おばけのケーキ屋さん。おいしいケーキを作って、ケーキを食べた人をおいしさで驚かせるのが好きだった。そんなケーキ屋さんのもとに、ある時1人の小さな女の子がやってきた。何やら不機嫌そうだった女の子に、ケーキ屋さんはケーキを差し出す。あまりのおいしさにびっくりするだろう、と思ったが、女の子は驚かず、「うん おいしい。だけど パパのつくるケーキと同じくらいかな?」と返す。そこから、ケーキ屋さんと女の子の関係は始まった。ケーキ屋さんは、女の子に世界一おいしいと言わせるため、女の子のためにいろんなケーキを焼いた。女の子はいつしか、毎日ケーキ屋さんを訪れるようになっていたが、反応はいつも同じだった。しかしある日、女の子が結婚して遠くの街へ行ってしまうことになる。ケーキ屋さんは女の子のことを思いながら必死でウェディングケーキを作り、結婚式が開かれるという丘の上へケーキを運んだ。そのケーキは、女の子の「パパのケーキ」を超えるのか――!?

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 1つのケーキから始まった2人の関係だが、最後、結婚式でケーキを食べた女の子の一言にはっとし、女の子の積もり積もった思いに涙してしまう。可愛いイラストにケーキ屋さん、おばけという題材で、一見子供向けの絵本のように思えるが、実は大人が読んでも感動できる、深いお話なのだ。筆者も書店で手に取り、最初は油断して読んでいたのだが、危うく涙するところだった。まだまだ言いたいことはたくさんあるのだが、ネタバレになってしまいかねないので、とにかく実際に本書を読んで、感じてほしい。

 日常で絵本に触れる機会は、子供でもいない限りはなかなかないが、絵本というジャンルは、実は名作の宝庫。たまには書店の児童書コーナーに立ち寄り、絵本を手に取ってみるのもいいものだ。この『おばけのケーキ屋さん』のような、心に深く刺さる絵本たちに出会えるかもしれない。

文=月乃雫