なぜ『孫子』が最強の兵法書といわれるのか? マンガで読む“勝利の法則”

マンガ

更新日:2016/1/8


『江河の如く 孫子物語』(杜康潤/KADOKAWA)

 数ある兵書の中でも最高峰といわれている『孫子』。『三国志』の英雄・諸葛亮(孔明)や曹操、毛沢東、ナポレオン、吉田松陰、『坂の上の雲』の主人公にもなった秋山真之……などなど、多くの偉人たちも愛読していたという。

 これだけ有名な書でありながら、今の日本で『孫子』を読んだことがある、という人はそう多くないだろう。確かに、この平和な状況で“兵法書”はあまり実用的ではなさそうだ。だが、『孫子』の著者“孫武”を題材にしたマンガ、『江河の如く 孫子物語』(杜康潤/KADOKAWA)を読むとその考えは一変するかもしれない。

 舞台は 孫武の生きた春秋時代。当時の中国は大小様々な国が乱立しており、戦の絶えない世でもあった。物語は、主人公が一族の内紛で母国を追われ呉という国に逃れるところから始まり、呉の王の元で『孫子』を書き上げ、その内容をもって敵国・楚を陥落させるところまでがメインで描かれている。

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 戦術書の作者というぐらいだから孫武とはさぞ好戦的な人物だろう、と思いきや、『孫子物語』の主人公はかなりの理論派。戦で指揮をとっても、できるだけ多くの兵を生かすことを優先し、たとえ勝ち戦でも味方が疲弊していれば引き返す。

「『戦』とはあくまで国益を得るための手段のひとつ」
「華々しき成果でも国益を害するならそれは失敗」
「最上の戦は戦わずして勝つ戦」

 など、孫武の言葉は兵法書を書いた人間のものとは思えないようなものばかり。だが、主人公のこうした人となりに触れていくうちに『孫子』がただ戦に勝つためのだけの書ではないことが分かる。

 戦の勝ち負けを“精神論”で語ることが多かった春秋時代において、戦の法則を理論的にまとめた『孫子』は、画期的な書だったのだろう。『孫子物語』には「“戦は国益を守る為の最終手段”“無駄な戦は避けよ”と明示するこの書物は国家のあり方や戦そのものを問う哲学の書でもある」と書かれている。実際、ビジネスやスポーツの理論にも応用できるため、『孫子』を参考にする経営者なども多いという。

 哲学書として読むもよし、ビジネス書として読むもよし。そして、本格的に『孫子』を読み始める前の入門書として、『孫子物語』を手にとってみるのもいいかもしれない。

文=松原 麻依(清談社)