超話題コミック『orange』最終巻売り切れ続出! なぜ人気? 恋愛だけじゃないその世界観に迫る

マンガ

更新日:2017/6/21

 楽しみにしていた連ドラ、連載コミックや小説が終ってしまうと、どうしてこうも切なくなるのだろう。あんなに続きが知りたかったのに、いつまでも終らないでほしいと「永遠」を願ってしまう。とはいえやっぱりラストは知りたくて……そんな矛盾した心を抱えながら、ついにその時を迎えるのだ。

 2015年11月に発売した大人気コミック『orange』5巻(高野苺/双葉社)も、おそらく日本中のファンを身悶えさせたに違いない。累計350 万部突破のピュアすぎる青春ストーリーがいよいよ完結となったこの作品。多くの書店の店頭でも一押し作品としてプッシュされているので、気がついた方もいるだろう。

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 まずは『orange』未体験者のために、少しストーリーをおさらいしておこう。物語の舞台は、長野県松本市にある高校。主人公の菜穂が高2になった新学期の朝、10年後の未来の自分から1通の手紙が届く。そこにはこれから起こることと、「後悔」を繰り返さないために取るべき行動が書かれていた。初めこそイタズラかと思った菜穂だが、やがて手紙に書かれた内容が次々に起こり、次第に手紙を信じるようになる。実は手紙に書かれていた10年後の自分の「後悔」とは、春に東京から引っ越してきた翔(かける)を事故で死なせてしまったことであり、10年前にはできなかった「自分にできたはずの事」を、過去の自分に知らせることができたら、もしかして翔が救えるのかもしれないという切実な思いだった。そんな未来の自分の強い願いに気がついた菜穂は、翔を失わないため臆病な自分を変え、精一杯の一歩を踏み出していく――

 6人の男女仲良しグループで過ごす他愛のない日々のやりとり、なかなか距離を詰められないもどかしい菜穂と翔の関係…やさしい城下町・松本の風景をバックに繰り広げられる青春群像は、誰かを「好き」という感情だけにまっすぐでいられる時代特有のキラキラとしたまぶしさに溢れている。

 そして何より、ただのラブストーリーでおわらない「仕掛け」が、『orange』の大きな魅力だ。「10年後の自分から手紙が来る」というSF的な設定が物語の根底にあることで、「どうして手紙がくるのか?」「安易に過去を変えてしまっていいのか?」など、いわゆるタイムパラドックスの謎ときの面白さがプラスされるのだ。

 手紙に書かれていることと現実に少しずつズレがおき始め、不安に押しつぶされそうになりながらも、絶対に翔を失いたくない! という菜穂だけでなく仲間全員の強い思いが、クライマックスに向けて強く響きあう。果たして翔はどうなるのか?

 詳しいことはもちろん本編を読んでいただくとして、手紙の謎や、未来と過去の関係などSF的な世界観にも決着がつくということはお知らせしておこう。ピュアなラブストーリーに胸キュンしながら、SF的スリルを味わうという贅沢な時間もこれにて完、というわけだ。もっと続いてほしいと思うものの、読み返してみれば全5巻は絶妙な長さ。学園ものらしいみずみずしいまぶしさ、恋愛ものらしい切なさ、そしてクライマックスまでのスリルあふれる展開、そのどれをも丁寧に全力で描ききった著者・高野苺に心底感服する(それでも、「スピンオフとか出てほしい!」と早くも思ってしまうのは贅沢か)。

 気がつけば世の中はいつのまにやらクリスマスシーズン。人恋しくなる季節だからこそ、コミックに映画に、『orange』ワールドでほっこり温かくなってみるのもオススメだ。あなたにとって当たり前の「誰か」の存在が、あらためてかけがえのない大切なものに思えてくるかもしれない。

 

文=荒井理恵

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