植物の「記憶」を辿るプラントハンターの物語 ー異色の冒険譚『アルボスアニマ』

マンガ

更新日:2016/1/14

 ぼくらのごく身近にいながらにして、非常に意思疎通が困難な存在。それが植物だ。動物のように目に見えて動くわけでもなく、ただただそこに生えているだけ。2015年12月12日に第2巻が発売した『アルボスアニマ』(橋本花鳥/リュウコミックス)は、そんな植物が持つ「記憶」を辿る特殊能力を持つプラントハンターを主人公に据えた、冒険譚である。

 主人公・ノアは、16歳の植物採集家。とある事情から15年間軟禁状態で育ち、友人と呼べるのは、まさに植物だけ。誰よりも植物を愛し、誰よりも植物の気持ちを理解しようとする。だからこそ彼は、周囲も一目置く優秀なプラントハンターになったのだ。

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 そんな彼は、類まれなる特殊能力を持っている。「起源追想」と呼ばれるその能力は、植物の根に宿った記憶を見るというもの。発動中に植物から体を引き剥がされると、精神を根に持って行かれ死んでしまうという危険性を孕むものの、プラントハンターとして生きる彼にとってこの能力は最大の武器でもあるのだ。

 このように危うさを感じさせるノアを守るのが、元海賊の護衛・ラジャード。かつては海賊の護衛をしていたほどの剣の腕を持つ彼は、植物のこととなると危険をも顧みないノアの無鉄砲さに呆れつつも、必死で守ろうとする。彼とノアとの関係は、主従関係で結ばれたそれ以上に深く、ときに立場が逆転したかのようなやり取りにクスッとさせられる。

 現在発売中の第1巻では、そんなふたりに、採集家を憎む少女・イヴが加わるさまが描かれている。悪徳な採集家に故郷の森を焼かれた経験を持つイヴが、どうしてノアたちの仲間になるのか。それはノアの採集家としてのスタンスにある。ともすれば大金を稼ぐため、植物を乱雑に扱う者も多い採集家。そのなかでノアは、お金ではなく、あくまでも植物のために動こうとするのだ。たとえば、「清のラン」が略奪者のような採集家に奪われたと知ったとき、自ら危険のなかに飛び込み、お詫びの言葉とともに元の持ち主へと返還したように。そのノアの言動にイヴは心動かされる。

 こうして揃った3人は、植物をめぐるさまざまな事件へと巻き込まれていく。やがて、イヴの宿敵が姿を現すが、なんとそいつはノアのことを狙っていて……。はたして、3人の運命はどうなってしまうのだろうか。

 ちなみに、著者の橋本氏は、「虫」をモチーフにした作品も手掛けている。『虫籠のカガステル』というタイトルで、独特の世界観を持つその作品は、来年1月から6カ月連続刊行する予定なんだとか! 一足先に発行されたフランスでは熱狂的な支持を集めているというから、いまから読むのが楽しみである。まさに、世界が認めたマンガ家の登場と言えるだろう。

 さて、最新巻発売間近となった『アルボスアニマ』。その植物への愛情あふれる冒険譚は、ハラハラドキドキしつつも、読者にきっと「やさしい感情」を教えてくれるだろう。

文=前田レゴ

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