『MOZU』もいいけど、今面白いのは「クラン」シリーズ! 警察組織の闇のスケールに震えよ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

現在、劇場映画が公開され注目を集めている逢坂 剛の「MOZU」シリーズは、警察内部の暗闘がテーマのひとつになっている小説であった。最近でも警察組織の闇を題材にした新たな警察小説シリーズが話題を呼んでいる。「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」シリーズの著者、沢村 鐵による「クラン」シリーズである。

第1作『クランI 警視庁捜査一課・晴山旭の密命』(中公文庫)はこんな話だ――。警視庁捜査一課の晴山旭警部補は、一課の上層部から密命を任せられる。警視庁鑑識課の大黒柱と呼ばれる検視官の綾織美音が、自殺を他殺と誤認するなど不審な素振りを見せているため、探りを入れてほしいというのだ。綾織に接近し、真実を確かめようとする晴山だったが、その背後に警察内部に潜む大きな闇の存在を知る。やがて、ある意志のもとに集められた人々と共に、闇に立ち向かうことになる晴山だが……。

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警察全体を飲み込む巨大な陰謀へ広がっていく物語の迫力と、魅力的なキャラクターたちが織りなす群像劇で読者の心を掴んだ「クラン」は、この度発売された第2作『クランII 警視庁渋谷南署・岩沢誠次郎の激昂』(中公文庫)でさらなる怒涛の展開を見せる。

警視庁内である警察官が拳銃自殺を図った。現場には公安部の面々が現れ、警察官の死を汚職と事件関係者との不適切な関係に悩んだ末の自殺と断定するが、晴山は釈然としない思いを抱く。一方、渋谷では交番巡査が何者かに銃撃される事件が発生する。渋谷南署生活安全課の岩沢巡査部長は銃撃犯を追ううちに、渋谷の中に潜む得体の知れない「何か」の影に気付きはじめる。

前作の気になるラストシーンからそのまま繋がる形で『クランII』は幕を開けるが、あれよあれよという間に物語は展開し、読者はいつの間にかスタート地点とは全く異なる風景を見せられることになる。前作では謎に包まれていた晴山たちが対峙する「闇」も、実は桁違いのスケールを持った存在であることが本作で判明するのだ。

物語の展開だけでなく、数多く登場する刑事たちの個性も「クラン」シリーズの読みどころ。特に本作では晴山と対をなすもうひとりの主人公、岩沢巡査部長の活躍ぶりに要注目だ。現在の岩沢は生活安全課少年係として未成年たちと接し、若い後輩を見守る一見穏やかな警察官である。しかし、かつては組対課(組織犯罪対策部)に所属し暴力団と密接な関係を築きながら、その人脈を活かした捜査で一目置かれていたような人物だったのだ。その岩沢の能力が遺憾なく発揮される場面が『クランII』では数多い。一人称が「俺」で綴られる晴山のパートと、「私」で統一される岩沢のパート、2つの語りの雰囲気から2人のキャラクターが対比されて描かれているのも面白い。

クランII』も前作同様、衝撃的なラストシーンが待ちうけているのだが、第3弾は2016年の春に刊行予定とのこと。一刻も早く続きが読みたいものだ。

文=H・W

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