『僕街』三部けい「『STAR WARS』は、子どもができてから”父”目線で見るようになった」<前編>

映画

公開日:2015/12/11

 「マンガ大賞」「このマンガがすごい!」に2年連続ランクイン、2016年にはアニメ化、映画化される話題作『僕だけがいない街』。その作者である三部けいさんは無類のスター・ウォーズ好きで、家には数多くのグッズやフィギュアがあるという。しかしそのスター・ウォーズ遍歴は、普通とはちょっと違うものだった。


三部けい
さんべ・けい 北海道出身。専門学校卒業後、荒木飛呂彦氏のアシスタントとなる。1990年第40回手塚賞佳作、同年第41回手塚賞準入選。現在『僕だけがいない街』(『ヤングエース』)、『非日常的なネパール滞在記(『月刊ビッグガンガン』)、瓦敬助名義で『菜々子さん的な日常REVIVAL』(『やわらかスピリッツ』)を連載中。

1巻
最新巻

『僕だけがいない街』(三部けい/KADOKAWA)
 売れない漫画家の藤沼悟は「再上映(リバイバル)」と自分で名づけた、不思議な現象に悩まされていた。悪いことが起きそうになると突然時間が巻き戻り、原因が取り除かれるまで何度も繰り返されるのだ。ある日、アルバイトである宅配ピザ屋のバイクに乗っている時に「再上映」が起こり、悟は事故に巻き込まれてしまう。さらにある大きな事件がキッカケで、これまでに経験したことのないほどの「再上映」(時間の巻き戻し=タイムリープ)で小学生だった1988年に戻ってしまう。大人の記憶のままの少年・悟は、同級生が巻き込まれた連続誘拐殺人事件を未然に防ぐべく調べ始めるが……。本作は2012年より『ヤングエース』で連載中で、12月には待望の単行本第7巻が発売。また2016年1月よりフジテレビ『ノイタミナ』ほかでテレビアニメ化、そして同年春には藤原竜也主演で映画化される。

映画にはハマったが、ストーリーにはハマっていなかった

「もともとSFには興味がなかったので、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』は見なかったんですよ。でも『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』が公開された時、友達に誘われて映画館へ見に行ったんです。そしたらとにかく特撮がすごくて、あの背景って絵なんだよって友達から聞いてスゴイなと。中学、高校くらいの頃、俺はアニメの背景を描きたいと思っていたので、これはスゴイと思ってハマったんです。それから『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を見て、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』も映画館へ見に行きました。映画の最後、デス・スターからファルコン号が飛び出してくるシーンがあるじゃないですか。あそこってすごい爽快感があって、それ見たさに何度も映画館に行きましたね(笑)。それからグッズとかも買うようになっていったんです」

 しかし三部さんは「スター・ウォーズは好きだったけど、たくさんある好きな映画の中のひとつだったんです。しかも当時は部分部分を見るような見方で、ストーリーが面白いとは感じてなかった」と言う。ところが1999年公開の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を見たことから、スター・ウォーズ観が一変していくことになる。

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「俺がスター・ウォーズに決定的にのめり込んだのは、そこからなんです。そして『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』と見るたびにどんどん深みにハマって、そこから改めて『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』から『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』を見直した時に話がガツンと入ってきて、感動の度合いが全然違ったんですよ。よくできてるなぁと」

 ダース・ベイダーの過去である「アナキン・スカイウォーカー」が子どもから大人へと成長していく姿を見たことで、ルーク・スカイウォーカーにようやく感情移入できるようになったという。

「アナキンはどうなっていくんだろう、ってことからストーリーに興味を持ち始めたんです。その『どうなっていくんだろう』というのを、それまでルークにはあんまり感じてなかったんですね。でもアナキンを子ども時代から見たことで、アナキンに関わる人みんなに興味が出たんです。そうすると、その子であるルークが父親のアナキンと比較してどう成長していくんだろう、と見ることができたんです。またアナキンとルークを比較して、この瞬間はアナキンにもあったけど、ルークはどうするのか、というようなことを考えながら見るようになりました。ルークってアナキンと同じような道を辿りながら、アナキンの道を選ばなかった人だと思うんですよ」

アナキンは子どもの頃から何も変わっていない

 好きなキャラクターはアナキン・スカイウォーカーとオビ=ワン・ケノービと言う三部さん。

「アナキンは後にダース・ベイダーになるのをわかってて見てるんですよね。だから最初は『この子がどう変わっていくんだろう』というのを見ようと思っていたんです。そしたら、変わってないんですよ! アナキンって善悪の振り幅はすごくデカイし、ダークサイドに堕ちてるんですけど、行動に一貫性があるように見えるんです。子どもの時に言ってた通りに生きてるんですよ、死ぬまで」

 アナキンは『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』で、「自分はパイロットでいつか宇宙に飛び立つ、ジェダイになって奴隷を解放する夢を見た」と言っている。また『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』で母親シミを助けられなかったことを後悔し、「自分は史上最強のジェダイになる、死からも人を救ってみせる、ママを救えなかったが約束する、二度としくじらない」と感情を爆発させている。

「アナキンは信念が強すぎて手段を選ばなかった、一貫した人だったんだなと思います。でも周りから見れば変わったとしか見えないんですよね、特にオビ=ワンからは(笑)。そのオビ=ワンを『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で最初に見た時って、世捨て人みたいなおじいさんで、ベイダーに叩き切られるシーンの意味も軽く感じてたんです。でも過去を見た後だと、ルークの成長をじっと待っていたんだってわかるんですよ。オビ=ワンってアナキンの横でいろいろ苦悩して、自分の能力に対するコンプレックスもありそうだし、子どもの頃から知っているアナキンがこうなったのは自分のせいじゃないのか、というのも背負っちゃってる。シリーズの中で一番苦労した人なんじゃないかと。なので僕にとってスター・ウォーズは、こうした『過去』が物語を『補完』してくれたんです」

子どもができてから「父」の目線で見るように

 アナキンとオビ=ワンの運命が決定的となったのは『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』での対決だ。三部さんはこのシーンが「見るに耐えないけど、一番好き」と言う。

「オビ=ワンがアナキンの手足を叩き切って、マグマのところで焼けていく姿をどういう思いで見ていたんだろうな、って思うんです。自分の親友であり、子どものような奴で、オビ=ワンから見ると『変わってしまった』アナキンが焼けていく…それは自分がやったんだという。オビ=ワンはあれで死ぬと思っていただろうし、自分の手ではとどめは刺さない、ということだったんだろうと思うんですけど」

 映画を見る際、このように登場人物の心理や行動を分析しながら見るという三部さん。「いつからか分析みたいなものが頭の中の多くを占めるようになっちゃって、映画見るとすっごい疲れるんですよね」と笑う。

「最初に見る時は、ものすごいスピードで考えるんですよ。今コイツは何を考えてるんだろうな、何かを思い出したのかな、とかって自分も想像しながら見ていると、見終わってグッタリしますね(笑)。それで2回目以降に『あれはどうなってたんだ?』というシーンを改めて見たりするので、いいと思った映画を何度も見るようになりましたね。だから見れば見るほど深く見られるようになっていく映画が好きで、感動するものは何回見ても感動するんです。でも若い頃と今ではまったく目線が違うので、昔良かったなと思った映画は改めて見るようにしてるんです。そういった意味では『スター・ウォーズ』も何回も見てるんですが、子どもができてから『父』という目線でアナキンやルークを見るようになりましたね」

後編へつづく

取材・文=成田全(ナリタタモツ)