殺処分される猫を社会問題にしない ―新しい社会と猫のつきあい方

社会

公開日:2015/12/7


『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本葉子、松村 徹/光文社)

 あなたはペットを飼っているだろうか。今や子どもの数よりも、ペットの数の方が多い時代だ。かつては番犬やネズミ捕り用に飼われていたペットたちは、今の時代は愛玩動物の枠を超えて、人間の大切なパートナーとなりつつある。世界的に見ても「ペット大国」である日本は、飼われるペットの数も多いが、捨てられ殺処分されるペットの数も多い。その数、犬は3万頭、猫は10万頭超にものぼる。

 『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本葉子:著、松村 徹:著/光文社)の著者の1人、山本葉子氏はペットの「殺処分ゼロ」を目標に、犬よりも遥かに多く殺処分されている猫を守るために「NPO法人東京キャットガーディアン」の代表として24時間、捨てられている猫たちと向き合い続けている。氏は、猫をボランティアとして保護するのではなく、ソーシャルビジネスとして、殺処分される猫を減らすシステムを作ることに成功した。

 世界的にも珍しい保護猫の展示と譲渡を目的とした「保護猫カフェ」を開店し、これまでに保護した猫を里親へ4000頭以上も引き渡した。これは驚くべき数字だ。さらにこの活動を長く続けるために東京キャットガーディアンを維持し続けるシステムを構築した。またインターネットを積極的に活用し、常に猫の情報と「寄付の見える化」を実現させ、透明度の高い組織運営を心がけている。

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 本当に処分される猫を減らしたいのであれば、猫を救う活動をしているNPO団体がなくなってしまっては意味がない。殺処分される猫の数をゼロにするためには、長い目で見た活動が必要なのだ。ボランティアを行う人の協力がいるし、活動資金だって必要になる。

 猫への愛情だけでは、殺処分される猫を救うことはできない。殺処分される猫を助けるためにも、組織を長続きさせるためのビジネスが必要だ。

 東京キャットガーディアンは、ソーシャルビジネスを取り入れ、猫を救うための資金を獲得している。東京キャットガーディアンが実際に考案したサービスの1つが「猫付きマンション」だ。猫との生活を夢見る住人のために、猫がいる賃貸マンションを経営するという試みである。賃貸マンションに猫好きを取り込み、保護した引き取り率の低い成猫を保護する居場所を作ったことにより、賃貸マンションに付加価値が生まれるだけでなく、実際に猫を救う保護施設にもなるという。この猫付きマンションは、居住者とマンションのオーナー、そして保護猫、たくさんの猫を救いたい保護団体の四者すべてが幸せになる最高のソーシャルビジネスの1つだ。

 現在、東京キャットガーディアンが行った猫付きマンションを発展させた「猫付きシェアハウス」はフランチャイズ化され、全国にその加盟マンションを増やしつつある。つまり、全国に殺処分される猫を保護することができる保護施設が増えていっているのだ。

 こういった山本葉子氏の活動は、理想だけでも、ビジネスだけでも成り立たない。長く猫を救うシステムを考えた山本葉子氏の猫への本当に深い愛情は、本書でコミカルに語られている。彼女が実際に自分の手でレスキューした猫たちのエピソードは、笑えるものもあれば、思わず涙腺を刺激されるものもある。

 もしも、あなたが猫を飼っているのなら、自分が死んだ後の猫のことを本書を読んで改めて考えることになるだろう。猫は人間よりも小さな命だが、飼い主が先に死ねば、その先に待っているのは不幸な結末だ。そうならないためにも飼い主である、あなたが死んだ後のペットのことを、本書を読みながら真剣に考えてほしい。

 もちろん、ペットを飼っていない人にとっても、本書は猫と社会との関わりを深く考えさせる内容になっている。東京キャットガーディアンの活動が、もっと日本中に広まればきっと殺処分される猫は減り、野良猫が社会問題になることはなくなるだろう。

 もしかしたら、数十年後には東京キャットガーディアンの努力によって、殺処分される猫がゼロになっているかも知れない。そんなステキな未来を夢見て、私たちも陰ながら東京キャットガーディアンを応援しようではないか。

文=山本浩輔