ストレスに勝つ食事とは? 脂肪、糖、グルタミン酸が最強コンボ!

食・料理

更新日:2015/12/17


『みんなのための「ストレスチェック制度」明解ハンドブック』(川口友万/双葉社)

 『みんなのための「ストレスチェック制度」明解ハンドブック』(双葉社)の巻末に収録された〈職業性ストレス簡易調査票〉で自分のストレス度合いを計ってみる。これは12月1日からはじまった世界初のメンタルヘルス診断制度〈ストレスチェック制度〉に向けて厚生労働省が提供をはじめたもので、全57のチェック項目に答えることで、その人がどの程度のストレスを感じているかが判断される。本書では具体的な点数を出すことはできないが、まずい、それでもいま自分が相当なストレスを負っていることは見てとれる。

 しかし、それは筆者にかぎった話ではないだろう。本書では、日本人がいかにストレスを感じながら生きているかを、自殺者数やうつ病患者数の推移、精神障害などの労災補償状況から明らかにしている。長引く不況、社会への不審、労働環境……ストレスがたまらないほうがおかしいが、それが原因で精神のバランスを崩し、働きつづけられなくなった人材が休業、退職していくのは企業とって大きな損失となる。それゆえ、健康診断と同じく、メンタルをケアすべく同制度が企業に義務づけられた。

 企業に向けて同制度の全貌や注意点をわかりやすく解説すると同時に、個人が生活のなかでストレスを減らすための具体的な方策を提案する著者の川口友万氏は、科学ライター。本書の刊行を記念して、去る11月15日、氏がマスターを務め、週に1度だけ開店する〈科学実験酒場〉で「抗ストレス食コース」が提供された。その内容は、

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・干し肉とドライプラム
・チーズのベーコン巻
・麺抜き二郎
・揚げバター

 一見して相当ハイカロリーなメニューばかりだが、これには理由がある。

川口友万さん(以下、川)「ストレスを解消するには、副交感神経を高ぶらせる必要があります。交感神経は覚醒や集中、緊張を生み出し、副交感神経は眠りやリラックスした気分を司ることはよく知られていますが、ストレスとはこの交感神経が異常に高ぶって体の機能に異変がもたらされた状態です。じゃあ、その高ぶりをダウンさせればいいじゃん、と思われるかもしれませんが、そう簡単にはできません。そこで、副交感神経を高ぶらせ、相対的に交感神経の興奮を鎮めることにします。それには脳内の快楽物質を出すのがいちばん! 食でこれを引き出すには、脂肪、グルタミン酸、糖のコンボが最強です」

 この日のメニューについて具体的に説明してもらおう。

「タンパク質には自律神経を整える働きがあります。そこで脳に食べる準備をさせるために〈干し肉〉を前菜として出しました。同時に、〈ドライプラム〉で糖を補います」


「アメリカ人は何にでもベーコンを巻きたがりますが、抗ストレスとなると〈チーズのベーコン巻〉がうってつけでしょう。乳製品+肉の脂に興奮しない人はいませんよね。それはなぜか? 肉の脂肪に含まれている物質が、ハイな状態を脳内に作り出すからです」


 乳脂肪と肉の脂肪のコラボレーションは、口に入れた瞬間から確実にテンションをガツン!と上げてくれる。続く〈麺抜き二郎〉とは、「ラーメン二郎」の麺以外を再現した川口氏の意欲作だ。

「二郎のラーメンには、なぜジロリアンと呼ばれるほど熱狂的なファンがいるのか? 並んでまで食べたい人たちが後を絶たないのか? 二郎のラーメンには、常軌を逸した量の脂と大さじ1杯のグルタミン酸が加えられています。それに野菜から出る甘さが加わって、最強トリオのそろい踏みとなっているわけです。今回はそのトッピング部分だけを再現しました」


 二郎人気の秘密の一端を舌と脳とで味わいつくした途端、目の前には、さらにそれを上回るインパクトの〈揚げバター〉が出される。バター約20gにホットケーキミックスと全卵をまとわせ、脂でじゅわっと揚げる。仕上げに、ハーシーズのチョコレートソースと練乳をたっぷりと!

「アメリカで流行っている屋台のお菓子だそうです。バターという脂肪の塊に甘~い衣、さらにチョコレートと練乳。脂肪と糖とで強制的に、快楽物質のひとつ、エンドルフィンを絞り出します」

 カロリーを考えただけでも卒倒しそうだが、一口かじるとドロッと液状のバターが口内にあふれ、そこにチョコと練乳の甘さが加わった強烈な味覚に脳がクラクラする。しかし有塩バターを使用しているため、その塩気がアクセントとなってペロリと完食できてしまう。これが日常的に売られている国っておそろしい……。

 


「脂肪たっぷりの抗ストレス食というのは、あくまで副交感神経を強制的にアッパーにして一時的に自律神経の回復を図るもので、こんなものをいつも食べたら心臓か膵臓をやられて死にますよ。もっと手軽にストレス解消したいなら、同じく米国生まれのクッキー『オレオ』ですね。アメリカンなお菓子は脳を圧倒し、麻薬的に食べさせます。アメリカでは、オレオやチョコバーをフライにして食べる文化もあるようですよ。かのエルビス・プレスリーはピーナッツバター&ジャム&ベーコンのサンドイッチをこよなく愛していたというけど、こうした高カロリーなものをフライにしてさらにカロリーを増すのがポイントですね」

 なるほどストレスを一時的に忘れられるけれど、そのぶん「これ絶対に太る……」というストレスに苛まれそう。

「快楽物質中毒になってしまうと、脂と砂糖なしではいられない脳みそになります。ストレスはなくなるでしょうが、ある種の麻薬中毒者と同じで、だらだらと一日中食べていることに……。そうなると太っても、もはや関係ないですね。いってしまえば、ラリってるのと同じですから。抗ストレス食でデブまっしぐらにならないためには、食べ物の〈報酬系〉を断ち切ることです。快楽物質のドーパミンが報酬系を作り、期待感や『また食べたい』という気持ちを生み出すので、脳の調子が上がったところで別の報酬を与えるんです。食に対抗できる原始的な快楽といえば、セックスでしょう。マッサージもいいですね。こうして新しい快楽の回路を作り出すのです。食べたら運動すれば太らない、とよくいわれますが、運動にはそれ自体、うつ病を抑える働きがあります。食べ物で元気にしてやり、その元気なうちに食べ物以外の気持ちいいことをする。それに尽きますね」

 本書には、「朝食は必ず摂る」「果物でストレスに勝つ」といったごくごく基本的な抗ストレス食生活も紹介されているが、ほかにもポイントがあれば教えてください。

「なんといっても、食べすぎないことです。食べすぎるとストレスが減るどころか増えます。そして、ストレスを解消しようとさらに食べる……というネガティブなサイクルが始まります。『おいしいものを少量』がストレスに対抗する、食事の基本。脂肪、グルタミン酸、糖の三位一体はたしかにストレスに対抗できますが、あくまで脳をキックして正気に戻すためのもので、食べすぎてはいけません。先述したように、もっと食べたい! と思ったらセックス。ぜひ実践してください」

 科学実験酒場は、毎週日曜のみオープン。マッドなメニューを生み出すマッドサイエンティスト・川口氏と、助手の高実茉衣ちゃんがあやしげなバーで科学実験よろしくエキセントリックな体験を提供する。テーマは毎週変わるが、ストレスに打ち勝つコツを訊けば、こっそり教えてくれるかもしれない。


◆科学実験酒場
https://www.facebook.com/groups/kagakubar/
東京都目黒区目黒本町4-3-14 コレクションハウスビル 202 フロム・ロンドン・カフェ

取材・文=三浦ゆえ

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