人気ドラマ『サイレーン』の原作者のダーリンは55歳!

コミックエッセイ

公開日:2015/12/15


『ダーリンは55歳』(山崎紗也夏/小学館)

 菜々緒の美しき殺人鬼が“コワすぎてたまらない!!”と話題のドラマ『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ系)。毎回手に汗握りまくりのクライム・ラブサスペンスも残すところあと1話。松坂桃李と木村文乃演じる、刑事であり恋人でもあるふたりの運命やいかに。果たして里見は、想定外の悪女・橘カラの標的となった恋人猪熊夕貴を守りきることができるのか…!?

 謎に包まれた連続猟奇殺人をキーに展開する“サイレーン”の原作者は、漫画家の山崎紗也夏氏。その山崎氏は35歳のときに55歳の年上男性と“20歳の年の差”婚にふみきり、ダーリンとのつれづれをリアルに描いたコミックエッセイ『ダーリンは55歳』(山崎紗也夏/小学館)を発行。ドラマ人気とともにこちらも話題となっている。“サイレーン”とはうって変わったギャグタッチの作風で、年の差ダーリンとの面白うてやがて切なきほっこりエピソードがつづられている本書から、年の差婚ならではの悲喜こもごもをいくつかご紹介してみたい。

夫の寝顔にどうしようもなく“初老”感!

20歳の年の差婚、いざ始めてみたら年下妻の山崎氏にとっては実はいいことのほうが多かった。これまで仕事に没頭するあまりに、自分の食事や家事はおそろかになりがちだった山崎氏。それに対してひとり暮らし歴が長い年上夫は、妻よりも数倍料理上手で家事上手。しかも自由業だけあってか、50代ながらTシャツにユーズドのジーンズをさらりと着こなし、見た目若くてとてもオシャレ。朝食の用意もせずに二日酔いでノロノロ起き出す妻に小言のひとつも言わずに、笑顔とともにみそ汁を出してくれる余裕。山崎氏いわくの「甘やかし」生活は、一見、年上夫のイイトコ取り祭りのようだ。

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 ところが、朝起きて隣りで寝ている夫の寝顔をふと見れば、そこには“初老”感にあふれた夫の素顔が。毎日朝っぱらから、甘い生活も吹っ飛ぶ現実にひとり直面する年下妻。ちなみに人間は加齢とともに体内の水分が徐々に減少して肌老化(乾燥)が進むため、ダーリンの指は指紋認証やスマホのタッチパネルにも反応しないのだとか。

毎日が映画の日!? 夫婦の映画デートは“50割”で

 映画館でふたり分のチケットを買おうとする年上夫。しかし免許証を手にくり出すセリフは「50割で。」。正しくは「夫婦50割引」。これは夫婦のどちらかが50歳以上ならばひとり1000円で映画を鑑賞できるというシステム。話題作を見ようと浮き立つ心がたちまち「そうだうちの夫は50過ぎ」というリアルに引き戻されてしまうのだ。しかし年の差婚の代表格、あの石田純一・理子夫妻だって50割だと思えば、大丈夫…!?

孫を望む母からプレッシャーはあるけれど…

母との電話でブルーになるのは「早く子どもつくんなさい。」「ダンナさんが死んだら、あんた独りになっちゃうんだよ!?」という情け容赦もない言葉。心配する親心は受け止めつつ「まだ死なないから大丈夫ッ。」と返してみるが、これは年の差カップルにとっては目をそむけられないシビアな現実。しかも自分自身も高齢出産の壁があり、ダーリンばかりを責められない。せめて疲労回復効果を狙ったステーキでダーリンに精をつけてもらうも、なかなか授からず…。一喜一憂していた山崎氏も、泰然と構えるダーリンの姿に心救われ、いつしか“子どもはできたらできたでラッキー♫”ぐらいのゆるいスタンスに落ち着いてゆく。

ケンカしても、絶対先に折れてくれる包容力

 人と比べず無理をせず、モノを大切にしながら悠然とつつましい生活を楽しむ“悠貧”を貫くダーリンには、孤高のカッコよさが漂っている。老後を憂う年下妻に対して「大丈夫。」「クヨクヨしても仕方ない。」とカラリと笑う。もういっそ、その大船に乗ってしまえとばかりに、覚悟を決めて前向きな決意をする山崎氏。だが、そんなふたりにも、ケンカのひとつやふたつは当然ある。

 世の中にはささいな行き違いから修復不可能に至るカップルも少なくない中、救われるのはケンカをしたら必ずダーリンから折れて、謝ってくれること。小さなことのようでいてこれは大きい。人生は決して長くはないのだから、できれば今隣りにいる相方を大切にしていたい。笑って仲直りした後“かけがえのない人生のバティ”と笑いあい、ほっと小さな幸せをかみしめるふたりの後ろ姿に心癒される。

 人は誰しも必ず年をとり老いてゆく。下流老人や老後の貧困など、長生きを躊躇したくなるような言葉も飛び交う昨今。しかしダーリンの生きざまを見ていると、加齢を現実のものとして認識しつつ、それを受け入れ適応していこうとする“幸福な老い”を表す概念「サクセスフル・エイジング」が浮かんでくるのだ。心の柔軟性を失わず、欲を抑えて足ることを知る精神をもち続ければ、心穏やかに清々しく老いと向き合えるのかもしれない。

 そんな年上夫の魅力あふれるダーリンの“内助の功”に支えられて力を得て、渾身の力を込めて描かれてきたであろう作品“サイレーン”。原作とは異なるオリジナルなラストが用意されているドラマ最終回に期待をしつつ、山崎氏の愛するダーリンの悠々自適なスピリッツにもぜひ、触れてみてほしい。

文=タニハタ マユミ