冬至にかぼちゃを食べる理由―日本の暦とそれにまつわる伝統的行事

暮らし

公開日:2015/12/22


『大切にしたい、にっぽんの暮らし。』(さとうひろみ/サンクチュアリ出版)

 まずは、暦についてお話ししましょう。暦には3種類があり、それぞれを「太陽暦」・「太陰暦」・「太陽太陰暦」といいます。太陽暦は、新暦・グリゴレオ暦ともいい、現在(日本を含め)世界的に採用されている暦がこれです。太陰暦は、月の満ち欠けを利用した暦で、およそ29~30日を1カ月として数えます。しかし、この暦の場合は(月と太陽の動きが別々であるため)暦上の季節と現実の季節がどんどんズレていってしまうという欠点があります。最後に太陽太陰暦ですが、これは太陰暦に太陽暦の要素を取り入れた暦法で、立春に近い新月の月の日を元日とし、およそ3年に1度の割合で「閏月」を加えて修正をするというものです。所謂「旧暦」とも呼ばれ、明治5年までは日本の国暦として採用されていました。

 太陽暦は現代の暦、太陽太陰暦はおよそ100年前まで機能していた日本の旧暦……では、太陰暦はいつどこで使われていた暦なのでしょうか? 実は太陰暦とは、昔の中国で使われていた暦なのです。しかし前述したように、太陰暦では暦上の季節と現実の季節がズレるという欠点があり、これを補う形で作られたのが「二十四節気」です。そう、私達も耳にした事がある「春分」「秋分」「大寒」「冬至」などです。これは、1年のうち、太陽が真東から上って真西に沈む「春分」「秋分」を起点に、太陽の動きを24等分した上で、その期間中の自然の変化を象徴した呼び名を付けたものです。日本に浸透したのは飛鳥時代とされています。この二十四節気をさらに3つに分け、その5日ごとの期間を「七十二候」といいます。この二十四節気と七十二候と、それに纏わる行事について解説しているのが『大切にしたい、にっぽんの暮らし。』(さとうひろみ/サンクチュアリ出版)です。では、二十四節気・七十二候と、風俗として暦の上に定着している行事の一部を紹介しましょう。

 冬の二十四節気の1つである冬至の日は、1年のうちで昼間が最も短く夜が最も長い日です。12月22日頃に訪れるこの日は、ゆず湯に入ることで無病息災を祈り、また「ん」のついた食べ物(なんきん・にんじん・れんこんなど)を食べることで運が向く、ともいわれています。ちなみに、冬至には「一陽来復」という別名があります。これは、冬至を境に日が長くなることを「悪いものが去り、良い方向へ転じる」と見るからだとか。日が長くなる一方で、寒さは一層厳しくなる時期ですが、だからこそ「もうすぐ福がやってくる」と思うことで心身を奮い立たせる、これは先人の知恵かもしれませんね。

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 この頃の七十二候には、雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)などがあります。これは、雪の下で麦が芽を出す時期であることを示しています。

 冬の二十四節気には、大寒(だいかん)というものもあります。これは1月20日頃……つまり、最も寒い頃です。しかしそれ故に、この頃の水は雑菌が少なく、長期間の保存が可能です。昔は「大寒の朝に汲まれた水は1年腐らない」といわれたほどです。その大寒の水を飲むと、冬の清浄なパワーを体に取り込めるとか。ちなみに、味噌・しょうゆ・酒などが仕込まれるのもこの大寒の時期です。

 大寒の頃の七十二候には、鶏乳始(にわとりはじめてとやにつく)というものがあります。これは、この頃にニワトリがたまごを産み始めることから来ています。

 最後に、季節の行事を1月から2つ紹介しましょう。1月は、古くは睦月と呼ばれていました。これは、年明けで親類・知人が集まり、親交を深め仲睦まじくしている様子が由来です。

 さて、この1月の7日は人日(じんじつ)の節句といいます。これは五節句の1つで、かの有名なひな祭りや七夕などの仲間です。人日の節句は、端的にいえば七草粥を食べる日です。七草とはご存じの通り、セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロです。これらは春の七草と呼ばれていますが、食べるのは冬なのですね。ちなみに、七草粥の起源は昔の中国にあります。昔の中国では、元日を「ニワトリ」、2日を「イヌ」、3日を「イノシシ」、4日を「ヒツジ」、5日を「ウシ」、6日を「ウマ」、7日を「ヒト」、8日を「穀」の日とし、このうち7日の「ヒト」の日に7種類の菜を使った汁物を食べて無病息災を祈る習慣がありました。これが日本に伝わり、定着したのです。本書では、七草粥の作り方も紹介されています。

 人日の節句の8日後、1月15日は「小正月」といわれています。元々、正月の3日間は妻の休日――料理を休める日でした(おせちはこのためですね)。しかし、実際は来客がたくさん来たり、家族全員がずっと家に居たりするなどであまり休みという実感が得られないものです。この小正月は、かつては妻の里帰りの日でした。年末から正月にかけてせわしなく働いていた妻が一息つく日です。このことから、小正月は「女正月」とも呼ばれます。この日には、あずき粥を食べる・どんど焼きという2つの風習があり、どちらも(呼称は地域差がありますが)全国各地に残っている風習です。あずき粥は無病息災を祈り、邪気を祓うため。どんど焼きは、空き地などにやぐらを組んで火をつけ、元旦に降りて来た年神様を炎にのせてお返しします。ちなみに、年神様というのは正月に各家を訪れる神様のことで、門松など正月の飾り付けもこの年神様が訪れるための目印だそうです。

 二十四節気、七十二候、さらに四季折々の行事を含めれば、それこそ本が1冊書けるほどの情報量になってしまいます。しかし、それは裏を返せば、知る楽しみ・参加する楽しみの種はいくらでもある……ということでもあります。日々の暮らしのちょっとした飾り付けとして、日本の伝統行事にちょっと参加してみるのも楽しいかもしれませんね。

文=柚兎