冒険→しない。会社→縛られない。安定→求む。そんなワガママ、聞いてもらえますか?

ビジネス

公開日:2015/12/23


『ダブルキャリア新しい生き方の提案』(荻野進介、大宮冬洋/日本放送出版協会)

 先日、2010~2014年に実施された『世界価値観調査』の調査結果に基づいたニュース記事を読みました。それによると、なんと日本の若者のクリエイティブな資質やチャレンジ精神はともに世界最下位ということでした。しかも、圧倒的。

 ここで「最近の若いものは…」というのは簡単、でもちょっと考えてみたら当然のことかもしれません。終身雇用の幻想は打ち砕かれ、年金がもらえるかも不透明。お先真っ暗な状態で、さぁ、冒険に出かけようと促してみても、後に従うのは勇気よりも無謀の気を持ち合わせた人ばかり。結局、チャレンジ精神とは、失敗が許容される社会での涵養される資質なのです。

 ですがその一方で、ある程度の冒険なしには安定した生活を得ることも難しい、という現代日本のジレンマも存在します。

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 『サザエさん』のマスオさんや『クレヨンしんちゃん』の野原ひろしが、半ば冗談めかして、半ば大真面目に再評価される時代。正社員になることすら大きなチャレンジに数えられる現在で、安定した雇用と収入を得るにはどうすればいいのか? 多くの人が自問していることでしょう。

 そんな疑問に一つの回答を提示したのが、『ダブルキャリア 新しい生き方の提案』(荻野進介、大宮冬洋/日本放送出版協会)という1冊。初版が2007年7月と、もう10年近く前の新書になりますが、今まさにタイムリーな内容となっています。

 タイトルからも分かる通り、この本では「正社員=本業」だけにとらわれない生き方を提案しています。正社員として一つの会社に勤めるかたわら、自分の趣味や特技を活かした副業をして暮らしている人々を、具体例を挙げて紹介しています。

 本書の目的の一つに、「副業」という言葉の持つネガティブなイメージを、プラスに転じることが挙げられます。

 副業という言葉には会社に「属した」人間が、「ついでに」する片手間仕事と受け取られがち。副業をしている人は本業をおろそかにしている、と考えられる風潮もあります。

 しかし、副業が本業に支障をきたすから禁止、というのであれば、本業をしている時間以外もすべて会社に捧げよ、ということでもあります。副業が禁止されるのであれば、恋愛もスポーツも旅行ももちろん禁止。副業を禁止するとは要は、「会社の奴隷となれ」と言っているのと同じわけです。それでいて、安定した雇用は保証しない。うーん、ブラックですね。

 そんな企業優位の状況から脱却しよう、というのがダブルキャリアの提案。「予行演習型ダブルキャリア」「相乗効果型ダブルキャリア」「他流試合型ダブルキャリア」と筆者が分類するように、ダブルキャリアにも、さまざまな目的、方法があります。いずれも、安定を捨てずにそれでいて夢や自分の家庭を大切にするための生き方です。

 ダブルキャリアには個人だけでなく、企業側にもメリットがあると考えられます。一つは、個人が繋ぐネットワークから、新しい顧客を発掘できること。一つは、もう一つのキャリアがその個人の成長に繋がり、会社にも利益をもたらしてくれること。もう一つは、終身雇用を提示する必要がない(その代わりに自由を保証する)こと。

 新人教育に頭を悩ませている企業が多い現在で、自分で学び成長してくれる人材ほどありがたいものはないでしょう。彼らダブルキャリアを実践している人々は、自分で学び、人脈を築き、それでいて会社に守られることを望まない。まさに企業にとってもうってつけの人材。ダブルキャリアは個人と企業、どちらにも勝利をもたらす、ダブルウィンな働き方として、21世紀日本の主流となるかもしれません。

文=A.Nancy