又吉直樹と羽田圭介は純文学のイメージを変えたのか―テレビ番組のデータベースで振り返る

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

 2015年の文学界最大のトピックスといえば、やはり「第153回芥川賞」。又吉直樹の『火花』と羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』がW受賞を果たし、『火花』の累計発行部数が245万部、『スクラップ・アンド・ビルド』も19万部を売り上げた。

 このヒットの要因は、もちろん作品の力もあるが、メディアの注目度の高さも上げられるだろう。テレビ番組のデータベースサービス「i-Catch」によると、「又吉 直樹 火花」「又吉 直樹 芥川賞」でヒットした番組は、2015年1月1日から12月13日までに693番組、1,110コーナーあり、放映時間の合計は59時間21分27秒だったという(番組の重複は除外)。月別で見ると、一番多かったのは受賞が決定した7月で、172番組、371コーナー、15時間34分14秒の露出があった。次に多かったのは贈呈式のあった8月かと思いきや、放映時間だと意外なことに11月が2位。そして12月は、それを上回る勢いで伸びているという。

 では、羽田圭介はどうだろうか? 「羽田 圭介 スクラップ・アンド・ビルド」「羽田 圭介 芥川賞」でヒットした番組は、同期間で129番組、208コーナーあり、放映時間では15時間44分54秒だった。羽田が特徴的なところは、9月、10月、11月と、出演番組数がほぼ同じで、安定した露出が続いていること。『スクラップ・アンド・ビルド』がコンスタントに部数を伸ばしているのと印象が重なる。そして、検索キーワードを「羽田圭介」だけに絞れば、受賞翌月の9月以降、露出番組数は一度も落ちることなく右肩上がりだという。

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また、「芥川賞」の検索結果にも大きな変化が見られた。2014年は1年間で139番組、210コーナー、14時間15分48秒。今年の同期間の検索結果は534番組、916コーナー、52時間18分43秒と、2人の影響で「芥川賞」も大きな注目を浴びたことがわかる。

 最後に、「純文学」。2014年は2番組、2コーナーにしか登場せず、総放映時間は15分43秒という結果だった。しかし、今年は26番組、33コーナー。総放映時間は2時間4分49秒もあった。さらに興味深いのは、8月以降のヒット数はゼロということ。2人の作品が純文学の枠を超えて、作品自体のパワーが認識されたということかも知れない。

 そんなトピックスがあった2015年だが、2016年はやはり東日本大震災から5年という節目の年だ。2016年1月23日(土)に発売予定の『ムーンナイト・ダイバー』は、震災にともなう放射能汚染で立ち入りが禁止された区域の海が舞台の小説。著者の天童荒太いわく、当初は雑誌の短編として書き始めたのだが、書いても書いても書き終わることができず、最終的に1冊分の原稿になったそうだ。

 さらに、2016年1月8日(金)には『お伊勢まいり 新・御宿かわせみ』が発売される。同作は、昭和48年から40年以上書き続けられている時代小説シリーズ「御宿かわせみ」シリーズの40巻目。著者の平岩弓枝いわく、「最初で最後の長編小説」になるという。1月から注目のタイトルが発売される2016年は、どんな年になるのだろうか。

■『火花
著:又吉直樹
価格:1,296円(税込)
発売日:2015年3月11日
出版社:文藝春秋

■『スクラップ・アンド・ビルド
著:羽田圭介
価格:1,296円(税込)
発売日:2015年8月7日
出版社:文藝春秋

■『ムーンナイト・ダイバー
著:天童荒太
価格:1,620円(税込)
発売日:2016年1月23日(土)
出版社:文藝春秋

■『お伊勢まいり 新・御宿かわせみ
著:平岩弓枝
価格:1,296円(税込)
発売日:2016年1月8日(金)
出版社:文藝春秋