3年前に書かれた乃木坂46・高山一実さんの初短編小説『キャリーオーバー』

文芸・カルチャー

更新日:2018/12/4

 僕は声をあげて泣いた。母を救ってやりたかった。宝くじはずっとそばにいてくれた。

『ごめんね、ごめんね。何もできなくて……本当にごめんね。』

 と、繰り返しながら必死に涙をふいてくれ、悲しさに溺れながら僕は意識をなくした。

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 どのくらい眠っていただろう。目を覚ますと、宝くじはずっとそうしていたかのようにこっちをじっと見ていた。

『お別れの時間が来たみたいだ。』
「え?」
『今日は新世代ジャンボの当選発表の日。おめでとう。君は一等の100億円が当たりました。おいらを銀行へ連れて行って。そして、ごめんね……。もっと早ければ、お母さんを助けられたかもしれない。短い間だったけど、楽しかったです。君は、おいらの大切な友達。ずっと忘れないよ。』

 ともだち。僕がずっと欲しかったのは、金だった。でもそれは金よりも価値のある物を見出せなかったから。

 僕は銀行へ行かなかった。母さんがいなくなった今、僕には味方が一人しかいない。こいつといると心が洗われた。邪悪なことを考えるのがバカらしくなった。そして何より、楽しかった。この世は金が全てではない。この先、普通に働いて、地道に稼いで、幸せになってやるんだ。初めてできた、友達と一緒に。

【新世代ジャンボ宝くじ キャリーオーバー継続中 つもりにつもってなんと賞金八兆円!!感情つき】

 当選者は未だに出ていないらしい。もっとも、僕みたいに名乗り出ないんだろうけど。
 

絵=深川麻衣