文芸・カルチャー

切腹で死にきれず、はらわたを引きずり出すのは本当か!? “歴女医”が伊達政宗や黒田官兵衛ら戦国武将を診察!


『戦国診察室 お館様も忍びの衆も歴女医が診てあげる♪』(馬渕まり:著、武将ジャパン:監修/SPP出版)

 今から149年前の慶応2年12月25日、孝明天皇が崩御した。明治天皇の父であり、江戸時代最後の天皇である孝明天皇は、天然痘による病死と記録されている。が、回復に向かっていたはずなのに容体が急変したことや、長州を嫌っていた孝明天皇の死によって岩倉具視ら親長州派が復権し明治維新が成ったことから、暗殺説も唱えられている。歴史上のミステリーのひとつだ。

 なぜ、どのようにして“彼”は死んだのか? 偉人たちの謎だらけの死は、歴史好きなら誰もが興味をそそられる。ミステリードラマよろしく、名探偵が出てきてひょいひょいと謎解きをしてくれたらどんなに気持ちいいだろう。だが、現実はそうはいかない。何百年も時を隔てた過去ならなおさらだ。この難題に挑んでくれたのが、“歴女医”と称する内科臨床医の馬渕まり先生。『戦国診察室 お館様も忍びの衆も歴女医が診てあげる♪』(馬渕まり:著、武将ジャパン:監修/SPP出版)で、医学的な観点から戦国武将たちの死の謎にアプローチする。

 「診察室」というだけに本書は診療科ごとに章立てされる。「生活習慣病科」ではがん、脳血管疾患、心臓病などを扱い、武田信玄や毛利元就、上杉謙信らを診察。また、「感染症科」では天然痘や梅毒などを取り上げ、伊達政宗や黒田官兵衛らを診察する。確かに彼らはいずれも大河ドラマの主人公となった有名な武将だが、最期を迎える際には決まって、立派なお屋敷の畳の上でごほごほと咳をして目の下にクマを作り、なんとなく死んでいく。仕方ないのでそれで納得してしまっているのだが、馬渕先生の診察によって彼らが弱々しい姿になる経緯を補える。

 また、「その他の診療科」で痔や虫歯、近視などを診察するが、現在の病院であればなかなか診る機会がないであろう切腹も取り扱う。小説やドラマでは、切腹したものの死にきれず、はらわたを引きずり出すという描写がよく見られる。ぞっとしてむやみに体をねじりたくなるが、果たしてあんなにむちゃくちゃなことを本当にできるのか?

 織田信長に筆頭家老として仕えた柴田勝家と、信長三男の織田信孝は、賤ヶ岳の戦いで羽柴秀吉に破れて切腹している。それぞれ内臓を引きずり出すという壮絶な死を遂げる。馬渕先生によると、内臓をつかめるほど大きく腹を切れば、痛みや出血などでショックを起こすらしい。もし腸を引っ張ったりしたら、「血管迷走神経反射」で脳血流を保てず失神する可能性もあるそうだ(採血の後に倒れる症状と同じ)。ただ、交感神経が興奮しまくっていればあるいはできるかもしれないとか。つまり、秀吉に対する無念と怒りが並の人間ならありえないことを可能にしたのではないか、とのこと。なるほど、これからはらわたを引きずり出すシーンを目にしたときには、その人の交感神経を刺激しまくる状況か否かを検証してみるといいかもしれない。

 タイトルからわかる通り、おふざけもあり軽いノリで読みやすい。ふんだんに盛り込まれたイラストは馬渕先生の手によるもので、筆ペンタッチのヘタウマな絵がくすりとさせる。もちろん、今に残る史料から判断できる限りであろうから、本当のところはわからない。真実は闇の中だ。だからこそ偉人たちの最期は想像をかきたてられておもしろい。

文=林らいみ



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