今日から撲滅! あなたの職場のクソったれ

ビジネス

公開日:2016/1/15


『あなたの職場のイヤな奴』(ロバート・I・サットン/講談社)

 仕事はできるけど、話していると人を嫌な気分にさせる。あるいは人の個人的な領域に土足で踏み込んできたり、人を嘲笑ったりするかのような言動をしばしばとる…。あなたの周りにそんな人はいないだろうか? 他にも人に公衆の面前で恥をかかせる、皮肉と見せかけて侮辱する、無視する、陰険な目つきでジロジロ見るなど、クソったれの候補は枚挙に暇がない。そんな社会の中のクソったれたちの生態系を事細かに分析したのが、ロバート・I・サットン著『あなたの職場のイヤな奴』(講談社)だ。

 筆者の論点は単純明快だ、「クソったれと働いていいことはなにもない。だからクソったれのいない職場づくりを目指そう」というもの。無理だと思う? 確かに、先に挙げたようなクソったれの人間は至るところに存在する。それを全て排除していくことは難しい。だが、「我が社ではそうした人材は、たとえいくら仕事ができようと認めない」という断固たる姿勢を打ち出せば、徐々にクソったれは減少していくはずだ、というのが筆者の考えである。

 なにしろ、クソったれは感染する。おそらくみなさんも経験したことがあるのではないだろうか? 考えてみてほしい。なぜいじめは一対一でなされるものでなく、一対集団となるのか? モラルの欠如した企業で、多くの人間が同じような行動をとるのはなぜ?

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 「クソったれは品性を吸い取る掃除機のようなもの」と筆者はいう。温かい心や優しい気持ちを持った人も、そうした人間に囲まれていては、その感情はスポイルされて、代わりに卑劣さと冷酷な心を植えつけられる。さあ、クソったれがもう一丁出来上がりだ。

 でもちょっと考えてみると、自分が全くの清廉潔白で聖人君子のような人間だと、言い切れる人なんていない、ということに気づかされる。この本を読んで、「そうそう、こんな奴いるいる」と相槌を打っている自分自身が、人生で一度もクソったれではなかった、と言い切れる人間が、どれくらいいるだろうか?

 人を非難する前にまず自分自身を見直すのは当然のこと。でなければ、それこそただのクソったれになってしまう。

 自分がクソったれだと判明したとしても、落ち込むことはない。大事なのは気づいて、改善することだ。それに気づいた以上、まだまだ後戻りができる地点。自分を客観視し、クソったれの人間には近づかない。そして、お金や名誉のためにクソったれと手を組んで仕事をするのはやめよう。「本当に大事なのはお金なのか? それとも品性なのか?」至るところで作者のこうした気持ちが響いている。

 最後に、本文中でも紹介されていた、クソったれを撲滅するためのルール作りについて紹介したい。今の会社で働いているのがイヤになっている人が、これを読んで少しでも気持ちが楽になってくれることを望む。

1. クソったれ撲滅ルールを会社に浸透させ、実施する。なによりこれは管理職だけでなく、全員の仕事だ。
2. 急流下りの要領で、流れに逆らわない。クソったれの攻撃が自分に向かっているのなら、それを受けて立つのではなく、流されてみよう。会社での自分の地位よりも、心と体の健康を守ること。
3. 相手が変わるなんて期待してはいけない。無関心を決め込んで、心を無にしよう。
4. 我慢しすぎない。クソったれをいつまでも容認しているような会社では働けない!と宣言しよう。
5. 自分自身もクソったれになるという教訓を、いつも心に留めておく。

 意外なことだが、これはクソったれに対する徹底抗戦の本ではない。クソったれが役に立つこともしばしばある、と筆者は認めている(その一例に元アップルのCEO、故スティーヴ・ジョブズ氏を挙げているのが面白い)。でも、と筆者は問う。たとえ仕事ができたとしても、そんな奴と一緒に働くのは嫌だろう?と。

 なるほど、確かにそうだ。だからこそ、会社や社会を変える前に自分を変えよう。あなたも私も、クソったれにならないために。そして、クソったれを追い出す努力をするために。

文=森