『ダ・ヴィンチ・コード』『ミレニアム』読者におすすめの三部作が登場! 堂場瞬一『バビロンの秘文字』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

 ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』、スティーグ・ラーソンの『ミレニアム』など、ジャンル横断の力強い海外エンターテインメント小説を好む読者には堪らない小説三部作が開幕する。堂場瞬一『バビロンの秘文字I 胎動編』(中央公論新社)は古代文字の謎を追って世界各地を巡る、著者の新境地というべき娯楽巨編だ。

 カメラマンの鷹見正輝は恋人の松村里香に会うため、スウェーデンのストックホルムを訪れる。里香は古代言語学者であり、古代メソポタミアで使われていたシュメル語の研究のためにストックホルムに本拠を置く「国際言語研究所」に派遣されていたのだ。ところが鷹見の目の前で研究所が突然、爆破されるという事件が発生。里香を助けようと現場に飛び込んだ鷹見が見たのは、何故か爆破現場から逃げるように立ち去っていく里香の姿だった。そして事件後、里香は行方不明となってしまう。

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 鷹見は、研究所が「未解読の『粘土板』を渡さなければ爆破する」という脅しを何者かに受けていたこと、その「粘土板」の解読に里香が関わっていたことを知る。一体「粘土板」にはどんな秘密があるのか。里香の失踪と「粘土板」には関連があるのか。鷹見は里香の行方を追うが、彼の行く手を正体不明の敵が襲いかかってきた。

 息を継ぐ暇もないアクションの連続と、虚実ない交ぜに織り込まれていく古代史がもたらすスケール感。それこそ先述の『ダ・ヴィンチ・コード』を彷彿させる、ノンストップ歴史スリラーの本道をいく小説だ。鷹見の必死の追跡行だけでなく、アメリカのCIAエージェントによる不穏な動き、さらにシュメル人の末裔をうたう謎の民族の暗躍などの場面をときおり挿入しながら、サスペンスを煽る演出にも抜かりがない。

 強調しておきたいのは、本作からは堂場の現代海外ミステリに対する愛着が垣間見えることだ。例えば本作の主な舞台であるスウェーデン。ラーソンの『ミレニアム』やヘニング・マンケルの「刑事クルト・ヴァランダー」シリーズがヒットしたことを受けてスウェーデンミステリの邦訳が活発だが、『バビロンの秘文字』はそうしたスウェーデンミステリに親しんでいる翻訳ミステリ読者にとってはお馴染の風景が数多く登場するのである。(実際にマンケルの名前が登場する場面もある。どこで出るかはお楽しみに)。最新の海外ミステリを常に追いかけている著者らしい、翻訳ミステリ愛がうかがえる意味でも本作は注目なのである。

 北欧、アメリカ、そして古代メソポタミアと、時間も空間も途轍もない規模で展開する『バビロンの秘文字』。しかし第1巻である本書を読む限りでは、実はまだまだ舞台は広がる気配があるのだ。II巻は2月25日発売、III巻は3月25日とのこと。どこまで壮大な物語になるのか、楽しみに待とうではないか。

文=H・W