舞台は超ブラックな人材派遣会社! 「金になるか」が基準の超悪女が君臨する『バッドカンパニー』に覚醒されよ!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

昔から「一月往ぬる二月逃げる三月去る」とはよく言ったもので、正月ボケを引きずっているとあっという間に時が経ってしまうのがこの時期。ここはガツンと脳に刺激を送ってバリッといきたいもの…というわけで、人気作家・深町秋生のビビッドなアクション連作短編『バッドカンパニー』(集英社文庫)をご紹介しよう。屈強なスタッフを揃え、金さえ積まれれば護衛から拉致までなんでもやるという超ブラックな人材派遣会社「NAS」を舞台にした、脳みそ覚醒にうってつけの新刊文庫だ。

物語の第1話は早朝の錦糸町で有道了慈の運転するミニバンが強盗団の襲撃を間一髪で撒くという、のっけから物騒なシーンで幕を開ける。ヤクザの売り上げの護衛に「NAS」から派遣された有道は、一度は襲撃をかわしたものの、亀戸付近の住宅地で強盗団の大型SUVにタックルされ、売り上げを奪われ銀ダラ(メッキされたトカレフ)で撃たれてしまう。だが、周到な作戦でどんでん返し、これにて任務完了と思った矢先に待ち受けていたのは…ハイテンションで血なまぐさく、ハイスピードの連続どんでん返しは怒濤の勢い。リアルな描写は映像的でもあり、収録された7編どれをとってもアドレナリン増強にはうってつけだ。

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私怨による国際テロリストの追跡、ヤクザの護衛、代議士の妹の極秘身辺調査…「NAS」に持ち込まれる案件は決して表沙汰にできるものではなく、ブラックかつ危険なものばかり。こうした案件の顛末を追うとあってどれも刺激的なのだが、加えてキャラクターの魅力がシリーズをより面白くしているのに注目したい。

この物語の主役ともいうべき有道は、社長に莫大な借金をカタにとられて会社を辞められず、ボヤキながらも仕事を引き受ける日々。元自衛官のタフガイとあって、ばったばったと難敵を倒していく姿は痛快だ。諜報活動が得意な社長の秘書・元警察官の柴が隠密のように脇を固めれば、なんといっても斜め上の破壊力で事態をおさめる「NAS」のクール・ビューティな女社長・野宮綾子が圧巻。

クール・ビューティな強い女といえば『アンフェア』の篠原涼子や『BOSS』の天海祐希、あるいは『エイリアン』のシガニー・ウィーバーや『トゥームレイダー』のアンジーなどなど、古今東西・新旧問わず正義のために闘う多くの美女が思い浮かぶものだが、野宮は圧倒的に「悪女」であるのが面白い(強いていうなら峰不二子やドロンジョ系のハイパー版か)。判断の基準は「儲かるかどうか」。金払いの悪い依頼人には容赦なく、情は絡んでも金にならない案件はバッサリ切り捨てる超悪女。だけど、なぜだかカッコいい。

ちなみにタイトルの『バッドカンパニー』は文字通り「ブラック企業」的なニュアンスと理解できるが、実はロック・ボーカリストのポール・ロジャース率いるバンドの名前でもある。おまけに全7編のタイトルも「レット・イット・ブリード」(ローリング・ストーンズの代表的アルバム名およびタイトルチューン)、「デッド・オア・アライブ」(バブル期に大ヒットしたディスコ系バンド)、「チープスリル」(名義はビッグ・ブラザー&ホールディング・カンパニーだが、ジャニス・ジョップリンの実質的デビューアルバム)、「ファミリー・アフェア」(鬼才スライ・ストーン率いるスライ&ファミリーストーンのNo.1ヒット)などなど、ご機嫌なロック色満点。物語にどう作用したのかは作者のみぞ知るだが、これらのロックをBGMにぶっ放しながら本書を楽しめば、さらなるドーピング効果は間違いなさそうだ。

文=荒井理恵

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